第314話 大阪市中央区千日前のかすつけ麺大盛

 仕事帰り。ここしばらく映画を観れていなかったので19時過ぎの映画を予約したはいいが、半端に時間が空いていた。買い損ねていた小説をわんだーらんどなんば店で数冊確保し、劇場へ向かう途中。


「ふむ、飯を食うとちょうどよさそうだな」


 ほどよい時間だったので劇場へ赴く前に何かを食うことにした。


「劇場の近くの方が安心だな」

 

 道具屋筋を抜けてミナミ千日前商店街を進んだところで、


「久々に、行ってみるか」


 関西人が読み方を間違えても当然のつけ麺屋へ。


 店頭の看板には、限定メニューの案内があった。


「関西限定……これはいいな」


 というわけで、注文も決めて店内へ。カウンターの奥に空席があり、すぐ入れそうでありがたい。


 一番奥の席に通されて注文の段になり。


「かすつけ麺、大盛りで」


 とサクッと注文を済ませる。


 おそらく、かすうどんのつけ麺版だろう。


 待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。


 現在は、五乙女のクリスマスイベント。五悪魔ではないので、安心だ。適当にロザリーのステージを出撃してポイントを稼いだところで、麺揚げの気配を感じて終了する。


 ほどなく、注文の品がやってきた。


「おお、うどんつゆっぽい」


 つけ汁は、薄褐色で油揚げと葱、そして、かす~ホルモンの油揚げが浮いている。想像通りのものらしい。麺は、通常より細めで、水菜と柚胡椒が添えられている。


「いただきます」


 まずは、さっと付けて喰えば。


「ああ、大阪の味だ……」


 典型的な関西のうどん出汁の味である。安心の味。だが、かすのお陰でしっかりした食べ応えも感じられる。いい塩梅だ。


 添えられた柚胡椒でピリリとした刺激を足すのもまた、いい。水菜の食感も趣がある。


 全体的に、優しい味わいで、とてもほっこりする。


 だが、だ。


「もう一声、欲しいな」


 大盛にしたので、優しいだけでは物足りない。


 卓上を見渡せば。


「いいものがあるじゃないか」


 にんにく七味唐辛子、というものがあった。


 七味ににんにくを足したら八味じゃないのか? いや、何かを引いてにんにくを足して七味なのか?


 名前からして想像力(?)を掻き立てるじゃないか。


 だが、よくわからないまま使うのもよろしくない。


 成分表示を見れば。


「うん、八味、だな」


 ということで、謎は全て解けた。


 ドバッとつけ汁に入れて麺を付ければ。


「おお、なんか、急に気合が入った味になったぞ」


 元々かすの油で獣の風味があったものを、ニンニクと唐辛子をはじめとした香辛料が一気に引き出してくる。


 これは、正解だ。


 さきほどまでの優しさにほどよい厳しさを添えて、腹の虫を楽しませてくれるではないか。


 これなら、どんどん行けるな。


 そうして、残りが減ってきたところで。


「さっぱりさせるのも、ありか」


 卓上の酢を回し入れ。


「うんうん、酸味が一体になってさっぱりだ」


 引き立った獣の味わいが再び中和され、するすると行ける味わいに。


 そうして、麺を喰いきり。


 割りスープも入らないタイプなのでそのままレンゲで掬……


「おうふっ」


 沈んでいた唐辛子をモロに吸って少しむせ、慌てて水を飲み。


 改めてレンゲで刺激的な味わいを最後まで楽しむ。


 最後に、改めて水を一杯飲んで。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にした。


「さて、魏呉蜀の物語で歴史に思いを馳せに行くか!」


 とんでもない茶番を見せられるとは、このときの私は想いも知らなかったのだった。

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