第308話 大阪市中央区難波のスタミナラーメンライス唐揚げセット

「ふむ、よくまとまった物語であった」


 仕事帰り。早めに出れたことを利用して『羅小黒戦記~ぼくが選ぶ未来~』を鑑賞してきたのだった。


 人間の開発により故郷を追われた猫の妖精の羅小黒ロシャオヘイが、住む場所を求めてさまよい続けていた。やがて、妖精である風息フーシーと、それを追う人間の無限と出会い、誰かと関わる中で成長していく。そんな、王道が心地よい物語だった。


 だが、


「腹が、減った……」


 仕事終わってそのまま飛び込んだのもあるが、とにかく空腹だった。上映中に腹が鳴ったがお隣さんもなっていたのでおあいこだ。時間的に、そうなるのも致し方あるまい。


 とても、家までは保たない。


 なら。


「何か、喰おう」


 劇場を出れば、色々あるが、とにかくさっと出てくるものがよい。

 

 大型家電量販店のビルの上に麺屋があるが、


「そこまで上るのがめんどいな」


 なら、下だ。


 劇場を出て少し先の階段を下りて左に折れればすぐに。


「そうだ、ここがあった」


 カウンター席がズラリと並ぶ、小さな店。


 久々に、ここにしようか、と思ったところで。


「スタミナラーメン! そうだ、今は、これしかない」


 一つ飛ばしになっているカウンター席の一つに着き、


「スタミナラーメン……」


 速攻で注文し。


「あ、セットってできますよね?」


「はい、大丈夫です」


「なら、ライス唐揚げセットで」


 セットがいけるなら、行こうじゃないか。


 腹が減っているんだ。


 というわけで、注文を通せば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今日はイベント最終日。だが、ポイントでランキングを頑張るより、ミッションビンゴを達成したので気持ちはとても楽だ。


 さて、一回ぐらい出撃しようかと思ったところで、


「スタミナラーメン、ライスです。唐揚げはもう少しお待ちください」


 もう、麺とライスがやってきたのだった。というか、さっと出るから麺にしたんじゃないか。


 という訳で、ゴ魔乙は終了して、


「唐揚げ、お待たせしました」


 と、いいタイミングで料理が揃ったのだった。


「これは、いいな」


 麺の上にはたっぷりの白髪葱、大ぶりな炙りチャーシューが3枚、フライドガーリック。赤身を帯びた味噌スープだが丼の表面の三分の一ほどが黒いのは、マー油か。


 ご飯は茶碗に適度な量。唐揚げは、しっかり揚がったのが3個と刻みキャベツ。添えられたマヨネーズ。


「いただきます」


 まずは、スープを一口。


「甘辛旨……」


 全体に甘みが強いが、マー油とフライドガーリックでニンニクもガツンとくる。更に、刻み葱。そして、スープの中に沈んでいたニラ。


 色んな物が混ざり合って、もう、元気になること間違いなしのお味だった。


 その味が残った状態で、唐揚げを一つガブリと。


 こちらも衣にしっかり味が付いており、鶏肉の旨味といい塩梅だ。キャベツで追い駆けて脂っこいのを中和しつつ、マヨネーズを添えて脂分ブラス。私は何がしたいんだ?


 とか考えながらも、ご飯を一口。


 スープと唐揚げの余韻で味わう米が旨くないはずもなかった。ああ、いいぞ……いや、ダメだ。米を先に言ってどうする。ラーメンの主役は麺だろうが。丼に箸をツッコンで引っ張り上げるのは、細ストレート麺。スープを纏い、味噌とマー油で濃い色合いになっているのが見るからに旨そう……旨い。考えている場合じゃない。待っていられる訳もなく、ズルズルと更に啜る。ときおり絡んで来る葱がいい。


 ここで、チャーシュー……薄切りながら大ぶりで食べ応えは十分。ニンニクを巻き取るようにして口に入れれば、炙られて香ばしいところにフライドガーリックプラス。最高だ。米、米。麺。炭水化物での追い討ちが気持ちいい。そうだ。ここは唐揚げもプラスだ。キャベツも食えばバランスが取れる……と、刻み葱入れ放題もあったな。麺に入っていたのは白髪葱。毛色の違う葱をプラス……うん、当然いけるな。だが、元の葱が十分あるところに入れすぎると喧嘩をする……よし、追加葱はこれぐらいにして、スープ麺米唐揚げと欲望に任せて貪ろうじゃないか!


「ふぅ」


 気がつけば、唐揚げはキャベツも含めてなくなり。


 ご飯は最後の一口。


 そして口内で麺を頬張りながら。


 僅かにスープの残った丼を見下ろす。


 麺を嚥下。


 続いて残った最後の米を放り込み。


 スープで追い駆ける。


 最後の最後まで、存分に味わい。


 水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」


 会計を済ませ、店を後にする。


「さて、帰るか」


 エネルギー充填は万全だ。悠々と駅へと向かう。

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