第303話 大阪市東成区東小橋のチャーシューメン大(野菜多め)

「疲れた……な」


 どうにも仕事が忙しくなってきて残業の帰り。


 帰宅して何かしら創るのもシンドイ。


 何か、さっと喰って帰りたいところだが。


「どうせなら、久々のところへ行ってみるか」


 かくして私は、鶴橋駅へと降り立っていた。


「食欲をそそるなぁ」


 焼き肉の匂いはいつものこととして、地下鉄の駅を出たところの店にてっさがあったりして、なんだか色々魅力的なものが増えているな。


 だが、今日の目的は違う。


 JRの駅の構内を出て、千日前通りを北側に渡り。


 道なりにしばらく東へと進めば、黄色いテントが見えてくる。目的の店だ。


「流石に空いてるな」


 時間が半端なのもあって、すぐ入れそうだった。


 厨房を囲むようなカウンター席を見れば、アクリルのパーティションで一人ずつ区切られている。この方式に特許がなくてよかったのだろうな。


 そんなどうでもいいことを考えながら、入ってすぐの隅の席について一息。


 メニューを眺め、


「チャーシューメン大、野菜多めで」


 とオーダーを通す。醤油・味噌・塩が選べるが、何も言わない=デフォの醤油で、シンプルに行こう。


 注文を通せば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。どうやら今日から新イベントで更新から。


 しばしして、起動すればハロウィンイベントの開始だ。


 内容は確認していない。取りあえず、本気を出すべきか判断すべく、聖霊石の購入ページを観れば……


「リ、リリー福袋、だと」


 そう、まさかのリリーだ。これは、買わねばなるまい。


 しかも、イベントは乙女ごとにポイントを稼ぐスタイルで、あれ? これ、本気ださなあかんやつちゃう?


 などと思っていれば、注文の品がやってくる気配。


 ゴ魔乙を終了して、待ち受ければ。


「うんうん、オーソドックスでいいねぇ」


 褐色のスープの表面に薄切りのチャーシューがたっぷりと。その上には、もやしとネギもたっぷりと。


 ごくごくシンプルなチャーシューメン。


「いただきます」


 レンゲでスープを啜れば、ガツンとくる豚骨醤油味。だが、清湯で脂でこってりというものではなく、グイグイ呑めるタイプ。


 チャーシューをスープと合わせれば豚の旨みが補完し合っていい塩梅だ。葱ともやしも、特別な味わいではなく、ごくごくありふれた味わい。だが、そこがいい。


 麺を引っ張り出せば、中細ストレートの肌にスープをしっとりと纏っている。そのまま啜れば、麺の味わいと絡み合って、シンプルに旨い。


 そう。


 本当にシンプルな、昔ながらの味わいがこの店の魅力だろう。


 やや重めのスープが特徴的と言えば特徴的だが、今時の背脂がたっぷりだったりスープがポタージュ状だったり辛かったり甘かったり。


 そういうのを抜きにして、なんというか、ラーメン、なのだ。


 ときおり、無性に食いたくなる味、というやつか。


 胡椒を振ってピリリとさせれば、それでまずは十分だ。


 もう、細かいことは考えず、ずるずる麺を啜り、バクバクチャーシューを囓る。


 勢いで三分の二ほど食い終わったところで、


「最後は、これも入れないとな」


 最初に入れてしまうと大きく味が変わるので控えていた、ペースト状になった唐辛子ニンニク、ヤンニョンジャンを小さじ半分程度、スープに放り込む。


 まぜ合わせれば微かに赤みがつき。


 麺を啜れば、


「うんうん、この味もいいなぁ」


 すっかり唐辛子とニンニクの風味に支配された豚骨醤油味。最初とは全く異なる味わいを楽しめる。


 そのまま、勢いで最後まで食いつくし。


 スープも迷わず飲み干し。


 最後に、水を一杯ので一息。


「ごちそうさん」


 会計を済ませ、店を後にする。


「さて、帰るか」


 駅へと、足を向ける。


  

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