第302話 大阪市中央区淡路町のどろどろそば+唐揚げライスセット

「疲れた、な」


 どうにも今週は慌ただしかった。だが、最後の最後で一つ強敵は倒せたと思われる。


 ゆえに、草臥れた身体を労るためにも、今日は外食で済ませようと思うのだ。


 とはいえ、運動不足は否めない。


 適度な運動がてら、堺筋本町方面へ到達すると。


「ん? 新しい店、か」


 明らかにオープン直後という風情の店が目に入った。


 気分転換に、未知の味を求めるのも、悪くない。


 早速、店内へと足を踏み入れる。


 入って左手に厨房とその前に並ぶカウンター席。右手も壁際にカウンター席。奥にテーブル席。


 そして、入り口すぐ右手には食券機があった。デジタルなタッチパネル式のヤツだ。


 とりあえず、メニューを眺めると。


「ふむ、こういう系統か」


 どろどろ系らしい。


 なら。


「せっかくだから、私はこのどろどろそばを選ぼう」


 と思ったのだが。


「む? サイドメニュー、そういうのもあるのか!」


 何となくタッチパネルを操作すると、唐揚げとライスのセットが目に入ったのだ。


 なんとも、定番で手堅くて、旨そうな組み合わせではないか。


「よし、どろどろそば唐揚げライスセットだ!」


 食券を確保し、入ってすぐのカウンターへと着けば、店員がすぐに食券を回収にやってくる。


 後は待つばかり、となれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。


 現在は、宝探しイベント。ティアラ姫のちょっとした粋な計らいがいい感じのシナリオだったが、リリーの出番がないのでのんびりペースだ。


 ボーナスステージが開放されたので、適度に宝を集めていると、注文の品がやってきた。


「ほほぉ、こういうのか」


 白く泡立つスープがどろどろということだろう。その上に、刻みネギと糸唐辛子、そして細切りの玉葱、だろうか? 丼の縁には、かなりのサイズのレアチャーシュー。


 ご飯と唐揚げはほどほどの量だが、付け合わせと考えれば適度とも言えそうだ。


「いただきます」


 まずは、スープを一口。


「なるほど、これは……あの系統?」


 鶏をベースに色々と溶け込んだポタージュ系。見た目と食感はこってりだが、旨味重視、といった味わい。そこに唐辛子などの薬味がいい仕事をしている。


 旨い。


 そのまま麺を引っ張り出せば、平打ちのビロンとした麺が出てくる。


「重い、な」


 どろどろのスープを纏って、正直箸で持ち上げるのに力が要る。


 それをどうにか口に運べば。


「いいぞ、どろどろデロデロだ」


 麺の食感とスープの食感が渾然一体となって、口内に旨味が広がっていく。


 そこで、すかさずご飯。


「やっぱり、米にも合うな」


 バクバクと喰って。


「更なる贅沢……」


 唐揚げを、添えられた塩で頂けば。


「酒が欲しくなる味、だな」


 小ぶりだが、衣に味がしっかり付いている。そこに更に塩を添えたりすれば、それは食も酒も進むというものだ。追加はしないが。


 まだまだ、ブースト要因はある。


「レアチャーシュー……素朴で旨い」


 塩気だけで肉の旨味が出ているところに、このどろどろのスープ。旨くないわけがないだろう。これで更にご飯が進む。麺も進む。


 なんだか、楽しくなってきたぞ。


 というところで。


「これを、いってみるか」


 備え付けの調味料から、辛子ニンニクの瓶を取って開ける。


「あ、こういうのか」


 ニンニクを練り込んだペーストを想像していたが、挽き唐辛子のニンニク和えといった風情だ。


 それを匙でひと掬いスープに入れ。


 食せば。


「風味がいいな」


 唐辛子とニンニクの刺激ももちろんあるが、それぞれの風味が追加される感じだ。辛味は余り強くない。※個人の感想です


 入れすぎると全体の味に勝ってしまうのでこれ以上は追加せず、そのまま楽しむことにしよう。


 と。


「あ、エリンギ、か?」


 スープの中からときおりなんとも言えない香りがしていたのだが、どうやら薄切りのエリンギらしきキノコも入っていたらしい。


 刺激の後に、癖があるが優しい香り。


 いいコンビネーションだ。


 麺をスープをご飯を唐揚げを。


 存分に堪能する。


 終盤には、辛子ニンニクを追加して風味ブースト。


 そうして。


「終わった、か」


 米も唐揚げも、そして麺もスープも。


 すべてを胃の腑に収めていた。


 どろどろ、堪能。


 麺を喰うのに少々力を使ったのでほどよい疲労感。


 最後に、水を一杯飲んで一息が心地良い。


 しばし余韻を楽しみ。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「さて、堺筋本町から帰るか」


 駅を目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る