第296話 大阪市中央区難波千日前の限定2

「中々興味深い映画だったな……」


 四連休の三日目。

 予定が空いていたので、朝の内に映画「テネット」を鑑賞したのだった。


 オペラハウスでのテロから始まる物語は、不可解な映像を伴いながら進む。テーマは『時間の逆行』であり、タイムトラベルなどの類ではあるものの、本当に現在の人と時間の流れが逆行してるので中々見ない演出があふれている作品だった。

 

 物語構造は難解な面もあるが、主人公と相棒のバディもの的なキャラクター性も見所であり、そういう方面でも見ごたえがある作品かもしれない。


 150分の長丁場でも長いどころか詰め込み過ぎに思える密度にくらくらしながら、得難い映像体験を終えて外に出たところで。


「腹が、減ったな……」


 脳を使えばカロリーを消費するのは必然だ。ここは、ガッツリいくのもいいだろう。


 かくして、劇場を出て商店街を東進し、途中で右折。道具屋筋手間で左折。次の角を右折してまっすぐいけば、目的の店がある。


「ちょっと並んでるか」


 とはいえ、開店から30分弱。タイミング的には最初のロットの客が出てくるころだから、すぐ入れるだろう。


 そう見込んで、列に入り『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動したところで、列の先頭が動きだす。


 そのまま、待つことなく店内へ。どうも、ちょうど入れ替わりのタイミングだったようだ。


 食券機に向かい。


「せっかくだから限定に行こう」


 と限定2の食券を確保して案内されたカウンター席へ。


 案内した店員がそのまま食券を回収し、


「ニンニク入れますか?」


 と問われるので。


「入れてください」


 と応じる。間違えても、ここでマシてはいけない。そういうサービスはやっていないのだから。


 席に着き、水を一杯飲んで一息。


 大分過ごしやすくなったとはいえ、日差しはやはり強い。


 人心地付いたところで、ゴ魔乙の続きだ。


 現在は、学園乙女のターン。今回はカモミールメインで、宝探しイベントだ。それはそれとして、転校生のめがねっ娘が気になってしまうのは人として仕方ないだろう。


 とはいえ、出撃を一度済ませたところでAPが尽きる。ボックスガチャで新しいリリーも確保済み。報酬を求めて果実を食べるほどガチで稼ぎに行ってはいないので一区切りにし、月曜なのでジャンプを読む。


 赤ずきんをモチーフにした読み切りの設定が興味深いと思っていると、厨房に動き。そろそろ来そうなので鞄にしまい、待つこと少し。


 注文の品がやってきた。


「担々麺……ではあるな」 


 山盛りのもやしの麓には刻みニンニク、頂上には赤黒い辛みそ。スープは灰褐色だが、そこに大量の一味がまぶされて赤みを帯びている。豚は、サイコロ上にカットされて、スープの中に見え隠れ。


 四川の息吹を感じながら、


「いただきます」


 まずは、野菜を喰うが。


「ごふっ……」


 一味を吸い込んでむせてしまうなど。迂闊だった。水を飲んで一息つき、スープに浸してから野菜を喰う。


「こってり坦々麺だ」


 スープがドロッとしているのは、ゴマダレだけでなくアブラも含むだろう。豚の出汁をベースにして、しっかりゴマ風味は感じられる。


 食欲を、そそる味だ。


 ならば、と。


 麺を引っ張り上げる。


 太く平たい特徴的な麺は、これでもかとスープをまとい、どろりとした食感とモチモチした食感が楽しめる。味も、ガッツリ。


 ずるずると啜り、野菜も齧ったところで。


「もう、混ぜるか」


 ニンニクと辛みそを一気にスープに沈めて混ぜる。あっという間にスープは赤く染まり。


「あったまる味だ……」


 カプサイシンの刺激とニンニクのパンチが合わさって心地よいのど越しだ。油断するとむせるのが難点だが。


 ゴロゴロ入った豚は、ホロホロと崩れるぐらいに柔らかかったり、単純に脂身だったりと柔らかい食感で、野菜のシャキシャキした食感と対比になり、麺も一緒に頬張ればカオスな食感が心地よい。一口大なお蔭で、一緒くたに口に入るのが、他のメニューと違い楽しいところだ。


 こってり辛旨を存分に楽しんでも、元の量が多い。まだまだ三分の一ぐらいは残っている。


 ここで、味変だ。


 とはいえ、一味は既に十分だ。胡椒は、少し方向性が違う。


 タバスコも魅力はあるが、酸味という気分でもない。


 なら。


「これ、か」


 調味料の器から粉を一振り。


 掛かった一角を喰らえば。


「魚介系も、合うな」


 振りかけたのは、魚粉である。魚介豚骨担々麺。かけすぎると、出汁の味ばかりになってしまうので加減はしたが、違った味の一面がまた楽しい。


 全体に味をつけるのではなく、今のように部分的に楽しむのがいい塩梅だろう。


 元の味を楽しみ、時折魚粉を加え。


 一杯で二つの味を楽しんでいれば、食は進むのは必然。


「もう、終わりか」


 気が付けば、固形物は野菜やらの切れ端のみで、スープのみが残る。


 一口、二口、余韻を楽しみ。


 最後に水を一杯飲んで区切りをつけ。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に上げて店を後にする。


「少し、歩くか」


 南へ進路を取り、オタロードを目指す。

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