第295話 大阪市浪速区日本橋の肉そば(冷)大

「さて、何か喰って帰るか……」


 仕事帰り。日本橋で買い物をした後。


 帰って何かを創るのも面倒な気分だったので、食事を済ませようと思い立つ。


「どうせなら、久々のところへ行くか」


 そうして、ふと、思い出した店があった。


「そうだな。ヘルシーに行くか」


 かくして私は、オタロードを南下し、大きめの道路で左折する。そうして直進し、堺筋を渡って一つ東に入ったところの角に、目的の店はあった。


 半端な時間だけに空いており、すぐ入れそうだ。


 引き戸を開けてコの字に厨房をカウンターが囲む店内に入り、左手の食券機へ。


「解り易いメニューだ……」


 肉そばのサイズと冷/温のみ。後はサイドメニューの類だ。


「なら、これかな」


 と、肉そば大(冷)の食券を確保する。まだまだ暑い季節だからな。


「しかし、多くの店に味集中システムが搭載されてきたな」


 この店も、カウンター席をアクリルパネルで一人ずつ仕切っているのだ。空いていた手近な席に座れば。


「消毒をお願いします」


 と備え付けのアルコールスプレーを示される。


 手指を消毒し、スタンバイOK。食券を出して、後は待つばかりとなる。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動すれば、現在は弾丸旅行イベント。とはいえ、ガイドにリリーがいないお陰でまったりと楽しめてよい。


 おでかけを仕込み、イベントステージへ出撃していると、厨房の方で盛りつけに入っているのが目に入った。


 ゲームを終了し、待つこと少し。


 注文の品がやってきた。


「これは、つけ麺の類だよなぁ」


 蕎麦の上には豚肉が敷き詰められ、その上に胡麻が振り掛けられ、刻みネギと海苔が盛られている。つけ汁は、ラー油入りの麺汁。


 中々個性的な蕎麦だ。


「いただきます」


 箸で蕎麦を引っ張り出せば。


「この太さの蕎麦、見ないよなぁ」


 一般的な蕎麦の数倍の太さ、そして汁につけて囓ればガッチリと詰まった歯応え。ラー油でこってりした汁に負けないパワーのある蕎麦だ。


 だが、それで終わらないのだ。


「天かす、かけ放題……」


 ということで、汁ではなく蕎麦に掛ける。


 汁に入れるとしっとりするが、蕎麦に絡んだ状態だとそこまで汁を吸わずにポリポリした食感が楽しめるのがよい。


 更に。


「パンチを加えるなら、これだな」


 小瓶に入った茶色いチップ~ガーリックを存分に汁に入れ。


 再び蕎麦を浸して喰えば、先程までとは別世界の味わい。このご時世、ウィルス対策には欠かせない味わいだ。


 そこに、元の薬味の海苔や葱を加えて楽しむ。豚はある豚しゃぶ感覚で味わうのもいい。ガツンとくる蕎麦に対して、むしろ肉が箸休めだ。


 ゴツい蕎麦に優しい豚。海苔と葱、そしてゴマの風味。更に天かすとガーリック。


 そこに、もう一つ加えられるものがあるのだが。


「今日は控えるか」


 薬味と同列においてある生卵には手を伸ばさないことにする。


 そうして、存分に楽しめば、丼は空になる。


 だが、まだだ。


「そば湯を」


 店員に声を掛ければ、ポットを持ってきてくれる。


 それを汁に注げば……


「ああ、ひやしあめ」


 生姜を利かせたそば湯が甘みのある汁とマリアージュすると、どうしてもひやしあめを思い出してしまうのだ。心地良い味わいである。


 そうして、最後まで堪能し。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、帰るか」


 日本橋方面へ、足を向ける。





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