第288話 大阪市天王寺区玉造本町のメン太そばとライス中

「暑い、な」


 休日の朝から銀行で用事を済ませ、せっかくだからと普段いかない方面へと足を延ばしてみた。


 学生時代はよく通っていたが、今は余り行く機会のない玉造方面だ。


「お、この本屋、まだあるのか」


 駅からすぐの裏道にあるこじんまりした書店。コミックやライトノベルが充実していて他に置いていないものがあったりして重宝したものだ。


 懐かしさを感じながら西へ進み、玉造筋へ。


 すると。


「ん、なんだかおもしろそうな店があるな」


 広い道路の向こうに、目立つ店構えの麺屋があった。ちょうど昼時。せっかくなので寄っていくとしよう。


「ほほぉ」


 店頭の看板には、たくさんのメニューが載っている。こじんまりした店だが、バラエティに富んだ麺を出すようだ。


 幸い、店内は空いていた。すぐ入れそうだ。


 足を踏み入れれば、左手に二つほどテーブルがあり、後はL字に厨房を囲むカウンターのみ。


 入ってすぐにある食券機には、沢山のボタンがある。ボタンのお品書きが手書きというのは、味があっていいな。


「ふむ、ここは、オーソドックスなところを攻めるか」


 マシ的なものまであったが、それは控え。醤油ベースの少し豪華っぽい「メン太そば」を選んだ。だが、


「セットはやってないか」


 休日扱いなのか、ランチメニューのセットのボタンが押せなくなっていた。から揚げとライスのセットは欲しかったが、単品で、と思ったものの。


「から揚げが、ちょっと多いなぁ」


 単品だと3個と6個。セットは2個。写真を見るにボリュームがあるので、2個がちょうどいいと思ったのだが、これは控えた方がいいな。


 そういうわけで、ライスの中だけを追加。ラーメンライスだ。


 食券を買うと店員にカウンターの一角に案内され、水を飲んで一息。食券を出せば、後は待つばかりと『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はイベントの谷間で特に焦ることもない。無料ガチャとおでかけをのんびり仕込んでいれば、注文の品がやってきた。


「なるほど、これはこれは」


 褐色の清湯スープ。刻み葱に味玉半分に長いメンマ一本、そして、大ぶりの薄切りチャーシュー2枚とワンタン。


 なんというか、ザ・中華そばと言った見た目。長らくこの手のを喰ってなかったので、むしろ新鮮だ。


「いただきます」


 まずは、レンゲでスープをいただけば。


「ん? これは……魚介系の風味?」


 基本はオーソドックスな鶏ガラ醤油っぽいが、それ以外の強い旨みがある。どうやら、貝柱とエビの出汁も加えているらしい。


 麺は中細。これもごくごくオーソドックスだが、スープをしっかり纏って麺と出汁がよくなじんでいる。


 チャーシューも齧れば、これまたシンプルな味わい。


 ワンタンは大きく、挽肉が少し包まれていていい塩梅。スープを吸ってこれだけで麺にプラスのボリュームを加えている。


 さらに。


「ごはんも進むな」


 米にもあう。


 ついでに、汗をかいた身に、スープの塩分が染みる。


「さて、もう、細かいことはいいだろう」


 味玉を一気に喰らってたんぱく質を摂取し、麺をずるずると啜り、ご飯を食む。


 麺をおかずにご飯を喰う。


 幸福だ。


 オーソドックスな中に個性を示す麺は、軽く見えたが喰ってみると意外にボリュームがある。


 お腹が満たされていく。


 心が満たされていく。


 先に、米が尽きた。


 次に、麺が尽きた。


 そして、スープも飲み干した。


「終わり、か」


 空になった丼を眺めて余韻を味わい。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、帰るか」


 強い日差しの夏の午後、玉造駅へ足を向ける。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る