第286話 大阪府大東市赤井の味噌ラーメン小チーズヤサイマシニンニク一味
「暑い、な」
会社は夏休みだが、今年は今までの夏がない。
イレギュラーが重なる日々の中、家でのんびりするつもりが、先に用事を済ませようと枚方方面で出かけた帰り道。
「だが、食欲は、ある」
帰りのJR学研都市線に揺られながら、腹の虫と相談をしていた。
せっかくの休みだ。おもしろい方へ向かう方が、よいだろう。
ならば。
「久々に行くか」
かくして私は、住道駅で下車していた。
改札を出て左へ向かい、陸橋の途中で左折。そのまま道なりに進んでいくと、ショッピングモールの裏手に出る。
その、周囲の道路から少し下がって半地下のようになった部分に目的の店はあった。
「そこそこ並んでいるな」
密にならないよう広めに場所を取っているが、それでも十人程度は並んでいた。
だがまぁ、休みだ。のんびり待つのも一興だろう。
先に食券を確保することになっているので一旦店内入ってすぐの食券機へ。
基本的にラーメンの食券を先ず買うのだが。
「ここは限定、だな」
今の限定は味噌のようだ。SNSで気になっていたのもあり、迷わず追加50円の味噌を選ぶ。これをラーメンと合わせて味噌ラーメンとなる仕組みだ。
「チーズも、いこう」
ここだと既に定番になった気がするが、スライスチーズのトッピングも追加する。
あと。
「小、だな」
小でも200gなので十分だ。券売機横の白い洗濯挟みで食券のプレートを挟む。
これで、準備は万端だ。外に出て列に入り、読みかけのラノベを開く。
無自覚な秘めた力を持つが、普段は激弱のひきこもり吸血鬼が軍隊の上級士官になって悶々とする御華詩だ。『異世界に日本刀』などの考証なんてどうでもいい、と言わんばかりの世界観が割り切ってて潔い印象である。
そうして、少しすると、店員が先だって食券の確認にやってきた。
さらに。
「お一人様なので先に」
ということで、前が四人組みだったのでその前に入れることになった。ありがたい。合法的に列の前に入りしばし待つと、順番がやってきた。
一人ずつではなく、一気に入っていく。総入れ替え方式をとっているようだ。
「なるほど、しっかりしているな」
カウンターだけの席は、一人ずつ透明の仕切りが作成され、味集中システムめいたブースになっていた。おしぼりと箸とレンゲも準備されている。コップは紙コップで水差しも席ごとに完備。至れり尽くせりだ。
席に着いて食券を出したところで厨房をみれば、既に麺茹でに入っている。
水を飲んで一息入れつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。とはいえ、出撃する余裕があるか微妙なのでおでかけを確認する程度に留めてすぐ。
コールの時間がやって来る。ロットの中では後半なので様子を見ていると。
「ニンニク、やっぱり増すと多いな」
という状況を確認し。
「ニンニク入れますか?」
と自分の番が回ってきたところで、
「ニンニクは入れてください。あと、ヤサイマシ。一味で」
と無難な注文にする。因みに、一味は座席になく、コール時に頼む方式である。
そうしてやってきたのは。
「おお、ええ感じや」
マシなのでそこまでではないがこんもりと積まれた野菜の上に、脂。麓にはガッツリニンニク。そして、デカい厚切りの煮豚が二枚。裾野から滲む赤茶色の味噌スープも食欲をそそる。また、別皿に真っ赤な一味。
「いただきます」
まずはレンゲでスープを一口。
「豚味噌……」
豚の出汁も味噌も主張し合って殴り合い調和している、そんな味わいだ。これは、とてもいい。ニンニクを混ぜれば更にパンチが加わってよき。ヤサイを絡めればモリモリ食える。
麺を引っ張り出せば太くて固い食べ応えのある一品。豚を囓ればホロホロ崩れる食感と豚味が楽しめる。
もう、難しいことは考えない。
モリモリ食おう。
麺を豚を野菜を貪る。
しばし楽しんだところで。
「これもいかないとな」
一味を、ダバッと。
「しっかり唐辛子味……」
絡みもあるが、旨味もある。
味噌と唐辛子は元々相性がいいし、豚とも相性がいい。
つまり、この麺と相性が抜群ということだ。
夏休み初日。これからを楽しむ活力が得られる、味噌ラーメンだ。
麺豚野菜野菜豚麺。夏バテ知らずに喰らいつく。
身も心も元気になっていく、幸せな食の体験。
だが、幸せは永遠には続かない。普段の努力も必要だ。
いや、そんな大袈裟な話でもなく。
「もう、終わりか」
固形物が消えた丼には、明らかにオイリーな味噌スープ。
レンゲで掬えば、どろり濃厚豚味噌味。一味のアクセントがいい感じだ。
しばし追い駆けて余韻に浸り。
水を一杯飲んで未練を断ち切り。
「ごちそうさん」
おしぼりを持って席を後にする。店頭のカゴにおしぼりを放り込んで後始末は完了だ。
「さて、帰るか」
快晴の夏の陽気の中、住道駅を目指す。
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