第280話 大阪市中央区難波千日前の賄いポン酢

「なんだか、力が、出ない……」


 湿気と暑さでどうにも体調が芳しくない今日この頃。


 仕事を終えるとどうにも腑抜けてしまってよろしくない。


「こういうときは、しっかり、喰おう」


 活動が抑制され気味の腹の虫だが、何、食い始めれば元気になるはずだ。いや、腹の虫を元気にするために、ガッツリ喰う、というのもありか。


 ならば。


「久々に行ってみるか」


 かくして、仕事帰りに難波で下車し、南側の改札から脱出。


 地上に出て無印横の信号を渡り、道具屋筋で南下。途中で左折。そうして最初の角を右折すれば、目的の店だ。


「少し並んでるが……まぁ、いけるか」


 先客は四人。最初のロットには間に合うだろう。


 列に並び、「ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~」を起動したところで、店が開く。後にしよう。


 店内に足を踏み入れて、食券機の前に。


「さて、ここは……ポン酢でサッパリ行こう」


 というわけで食券を確保し、食券機横のコップも確保して席へと着く。


 店員に食券を渡し。


「ニンニク入れますか?」


「入れてください」


 とニンニクの有無を告げる。間違えてもマシてはいけない。この店は、そういうことはやっていないからな。


 後は待つばかり、ということで『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を再度起動する。現在は宝探しイベント中。速攻でリリーはゲットしたのでボーナス付きでゆるゆると巡回中だ。おでかけやら、なんやら、細々としたことを済ませせ、本日解禁されたイベントステージのデモを見ていると、以外に時間が経過していた。リリーがメインだったから見入っていたのもあるかもしれないが。


 そんなわけで、出撃前に、厨房で盛り付けが始まっているのが見えたので、ゴ魔乙は終了。少し待てば、注文の品がやってくる。


「うんうん、ジャンクだ」


 高く積まれた野菜の麓で、だらしなく丼の縁に垂れたキャベツともやしもまたいとおかし。麓の肉塊とニンニクの彩りもよし。どろり濃厚が一目でわかるスープも食欲をそそる。


「いただきます」


 まずは、野菜を一口頬張れば、ポン酢のタレの酸味がほどよい。そこに、スープを合わせればどろりとしたアブラの食感と塩気。ガツンとくる味わいが広がる。


 そうすれば。


「おお、腹の虫が……」


 一鳴きする。今の刺激で胃が動き始めたのだろう。


 ならば。


 箸とレンゲを駆使し。


 野菜と豚をスープに沈め。


 麺を引っ張り出して頬張る。


「ふぅ、生き返る」


 炭水化物+アブラのコラボレーションを、ポン酢の酸味がさっぱりと偽装してくれる、いい塩梅だ。


 そこで豚を囓れば。


「少し、冷たい……」


 ので、スープに浸し直す。だが、豚の旨みはしっかりと口内に。


 その味わいで、野菜を麺を頬張れば、幸せな気持ちになれるからよし。


「酢の効果は、スごいな……ぷっくくく……」


 ついつい、ゴ魔乙のリリー的なことが頭によぎる。牧場でぼく丈夫なのだ。眼鏡に執着する水の悪魔は伊達だけど伊達じゃない。


 ともあれ。


 ここまでくれば、もう考えない。


 モリモリ、喰えば、いい。


 麺麺豚麺野菜麺。


 そこで、胡椒と一味をドバドバと。


 更に。


 麺麺豚野菜麺。


 残り少なくなったところで。


 魚粉。


「一気に変わるな」


 酸味のある魚介豚骨味の変化を付けて、どんどん胃の腑に収めていけば。


「もう、終わり、か」


 ドロドロのスープだけの丼を前に、少し呆け。


 レンゲで麺と野菜の切れ端を浚い。


 最後に、水を一杯のみ。


 名残を惜しんでレンゲにもう一杯だけスープを味わい。


 水を、改めて一杯飲み。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に上げて店を出る。


「さて、少し歩くか」


 オタロードへと、足を向ける。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る