第279話 大阪市浪速区難波中の醤油らーめん

「早く、家に……」


 仕事が終わった私は、腹の虫の騒ぎに悩まされていた。


 どうにも、体調も優れない。


 空腹を癒すため、家にいかねばならない。


 それも、可及的速やかに。


 かくして、御堂筋線なんば駅で電車を降り、南側から地上へ。


 なんさん通りを東へ向かい、オタロードへと。


 そうして、ソフマップ前の、『家』についた。


「よし、間に合った」


 時刻は17時50分。まだ、18時になっていない。


 速攻で店に入り、基本の醤油らーめんの食券を確保して空いていたカウンター席へ。


「麺大盛りにしますか?」


「します」


「麺のかたさなどは?」


「かため、濃いめ、普通で」


 食券を取りにきた店員に好みを伝えれば、後は待つばかり。


 ながらも。


 カウンターを立って入り口付近の保温ジャーからご飯をよそう。


 これで、一安心。


 そう、急いでいたのは他でもない。


 18時まではご飯食べ放題、麺大盛り無料なのである。


 弱った身体に癒し。ガッツリ喰って腹の虫を黙らせて夏バテなどを防ぐのである。


 後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は夏らしいソフトクリームの宝探しイベント中だが、早々に新しいリリーをゲット出来たので心は穏やか。とはいえ、出撃する時間があるかは微妙なので、おでかけを仕込んで待つことしばし。


 注文の品がやってきた。


「クリーミィ」


 白濁したスープ、ポツンとのったうずら玉子と、彩りを添えるほうれん草。焦げ目のついたチャーシューに、淵を飾る大きな海苔。


 久々の家系だ。


「いただきます」


 まずは、スープを啜る。濃いめにしたのでかなりしょっぱいが。


「ああ、ご飯が進む」


 という塩梅である。関東発のラーメンだがご飯と合うことを売りにしているのだ。なら、いい加減お好み焼き定食焼きそばセットも認めてほしいものである。たこ焼きはおかず。


 ご飯に合うものは、ご飯と喰えばいいのである。


 それが、真理。


「海苔巻き……」


 大判の海苔にスープを浸し、ご飯を丸め込んで食えば、美味しい豚骨醤油おにぎりのできあがりである。


 しょっぱくなった口内には、ほうれん草が癒し。


 そこで豚。こちら、しっかり味が付いている。


「米だ!」


 当然、ご飯にもあう。


 そして、麺を啜る。しっかりスープを纏い。


「ご飯が進む!」


 麺で食うご飯。炭水化物✕炭水化物。糖と糖を脂と塩分でマリアージュさせる、禁断の味わい。


 大丈夫だ。


 糖と脂を取れば、ストレス緩和にもなる。


 健康的な食事だ。


 間違いない。


 そう言い聞かせたところで、ハタと気付く。


「いや、もう一押し」


 備え付けの容器からニンニクをひと掬い。


 スプーン一杯で加わるパンチ。


「これで、ウィルスだって怖くない」


 旨さに殺菌殺ウィルスも加われば無敵。


 とにかく、食が進む。


 米と麺。ここで、うずらを一口で。ご飯、麺。


 豚。ほうれん草。


 海苔。


 麺ご飯麺ご飯スープ。


 ああ、生きている。


 ガッツンガッツン口内で繰り広げられる糖と脂の激しいダンスに、多幸感が脳にこみ上げてくる。


 食は生の実感。


 旨い。


 理屈はいらぬ。


 満たされる腹。


 重くなる腹。


 出っ張る腹。


 気にしてはいけない。


 今の幸せを、大切に。


「もう、終わりか」


 気がつけば、丼にはスープだけ。


 そこに。


「少し、アレンジを」


 備え付けの生姜を少し加え。


「サッパリするなぁ……」


 ピリリとした風味に冷やしあめを思い出しながらしょっからいスープを、飲み干す。


「ふぅ」


 余韻に少し浸り。


 店員からまくり券を受け取り。


 最後に、水を一杯飲み干して、気持ちを切り替え。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「すこしぶらつくか」


 満たされた腹と心を抱えて、オタロードへ。

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