第278話 大阪市中央区日本橋の豚Wラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

「なんか、ガッツリ喰いたいな……」


 なし崩し的に日常が帰ってきた気がする。

 電車の混雑も、元通りに近い。

 職場からの帰り道。

 疲れを癒すために、腹の虫が叫んでいたのだ。


「となると……」


 難波駅の南側から出て、道具屋筋を抜け、オタロードに繋がる裏道へと向かう。


 そのまま南下して、オタロードへ達する手前に、目的の店はあった。


「すぐ入れそうだな」


 まだ閉店前だが、先客は一人。

 並んでほどなく、店はオープンした。


「さて、今日は……」


 カレーがなくなったのは残念だが、オーソドックスにいくか。


 いや。


「いっそ、豚増やす?」


 というわけで豚Wラーメンの食券を買い、先客とソーシャルディスタンスを意識した座席に着く。


 店員には、


「ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメ魚粉」


 とサクッと詠唱を済ませれば、後は待つばかり。水分を補給してから、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在は、叛光編のラスト。衝撃の事実だけど「せやな」という展開を楽しめるイベント中だ。おでかけを仕込み、サクッと一度出撃してポイントを稼いだところで、注文の品がやってくる。


「なるほど、ダブルだ」


 高く積まれた野菜は、魚粉で上部を褐色に染め。麓には、たっぷりの刻みニンニクと、ゴロゴロ肉塊。豚の量は、文字通りW。


 これは、いい感じだ。


「いただきます」


 まずは、崩さないように野菜を喰らう。


「うむ、いけるな」


 魚粉でしっかり味があるので、そのままでも大丈夫。モリモリ食える。


 だが、慎重に。


 少しずつ喰い進めていく途中。


「これだけあるなら、どんどん喰わないとな」


 麓の肉塊を一つ、零さないようにスープに少し浸してガブリと行く。


「にくぅ」


 いや、そのままなのだが、デカい肉に齧り付くのはロマンがある。いつもの倍、楽しめるのだ。がぶがぶ行こうじゃないか。何、野菜もしっかり食ってるんだ、問題ない。


 ……そう、このときは思っていた。


 そのまま順調に野菜を減らしたところで。


「そろそろ、麺だな」


 レンゲと箸で野菜と大蒜と豚を沈めつつ、麺を引っ張り出して天地を返す。


 ついでに、肉塊の一つに贅沢に一味と胡椒を振り掛けてガブリガブリ。旨い。


 続いて、引っ張り出した麺を貪り喰う。


 豚を野菜を麺を、貪り喰っていると。


「なんだか、ちょっといつもと、ペースが……」


 そう、なんとなく、重いのだ。


 胃が。


 そう。


「あ、豚W……」


 侮っていた。


 そういえば、何もしなくても結構な量が入っているのがこの店の豚じゃないか!


 今更だが、そんなことに気付く。


 とはいえ、まだまだ食い切れないほどではない。


 考え方を変えよう。


「ここから、じっくり楽しむんだ」


 水を軽くのんで一息入れ。


 ペースを落とし。


 麺を。


 野菜を。


 豚を。


 楽しむ。


 楽しい。


 旨い。


「ふぅ……」


 焦らなければ、大丈夫。


 いつもの倍の豚は少々重かったけれど。


 ほら、丼の中には細々破片が沈むスープだけ。


 レンゲで追い駆け、可能な限り固形物を浚え。


 スープをもう少し、楽しみ。


 最後に、水を一杯。


「ごちそうさん」


 サクッと店を後にする。


「少し、歩くか」


 腹ごなしに、オタロード方面へ足を向ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る