第276話 東大阪市足代南の山崎真鯛と羅臼昆布の冷やし白湯そばと和え玉
「暑い、な」
感染症の騒ぎの影響で、未だ在宅ワークが続く中。
仕事場にしている場所に敷いているのは、冬物のラグだった。
もうそろそろ在宅も終わりそうな雰囲気があるが、それでも。
「暑いものは、暑い」
ということで、在宅仕事が終わった後、布施のホームセンターまで足を伸ばしたのだった。
「もう、これでいいか」
夏物の敷きパッドで丁度良さそうなサイズのものがあり、値段も安かったのでサクッと購入し、帰路に着いたところ。
「腹が、減ったな……」
というわけで、何か喰って帰ることにする。
「さて、どこへ向かおうか?」
せっかく布施まで出てきたのだ。
色々と選択肢はある。
とりあえず、駅の方面へ歩いている途上。
「そうだな……久々にあの店に行ってみるか」
ここだという店に思い当たり、向かうことにする。
ホームセンターのある側から近鉄の線路を挟んで南側。
アニメイトの前を西進し、商店街にぶつかったところで左折。
そのまま商店街が途切れたところにある自転車置き場の向こう側に、黒字に『麺や』と書かれた暖簾(?)がある。一見すると、店にはみえないような、ひっそりとした佇まいだが、茶色いタイル張りの壁には住宅の表札のように、屋号が書かれている。
入り口にはこのご時世というのもあって、消毒用アルコールがあったので手指を消毒して店内に入る。
テーブルは満席だったが、幸いカウンターが一席だけ空いており、すぐ入ることができた。
「さて、何を喰おうか」
ここは魚介がメインの店だ。最近食べていないタイプなので何を喰ってもいい感じなのだが。
そうして、店内を見回すと、限定の文字。
気になる。
が、『冷やし』とある。
冷やした麺には、名前を言ってはいけないあの植物が高確率で入っている。
こういうときは。
「済みません、あの限定の具材……入っている野菜って何がありますか?」
意地でも名前は言わないスタイルを貫いて店員に尋ねると。
「大葉とカイワレとタマネギです」
親切に教えてくれた。
よし、名前を言ってはいけないあの植物は入っていない。
これなら、いける。
「では、限定をお願いします」
と注文を通す。
注文を通せば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在は、ディオール学園イベント。主役はエリオとチコ。特に今回はマイペースでよいイベントでもあり、また、どのくらいの時間で出てくるか解らないため、出撃は控えておでかけなどだけを仕込んで終わりにしておく。
そうして、メニューを眺めたりして時を過ごしていると、注文の品がやってきた。
「なんとも言えない見た目、だな」
丼の半分ぐらいを締める、生ハムのようなレアチャーシュー。中央には、刻んだ大葉。刻み玉葱、カイワレ。隅にレモンスライス。
そして、その他の部分にはページュのジュレのようなもの。
「これが、白湯、か」
箸を持ち、たスープ(?)の中に箸を入れれば、ポタージュよりもどろり濃厚な感触で、カルボナーラのようにスープ(?)を纏った麺が現れる。
一口啜れば。
「おお……さっぱりする……」
外の暑気に充てられていたのもあるが、冷たい喉越しがまず心地良い。
また、味わいは見た目のどろり濃厚に反して、煮干しと昆布の出汁で引き立てられた鯛の風味。和の上品な味わいだ。
そこに、大葉、カイワレ、玉葱といった癖の強い薬味が合わさると、いいアクセントになる。
「となると、レモンも絞ってしまおう」
さっと絞り、麺を啜れば、爽やかさがプラス。これはいい。
濃厚ながら、とても食べやすく、夏向きの味わい、というところか。
そこにきてレアチャーシューを思い切って囓る。しっかりと肉そのものの味わいを塩で引き出したタイプで、スープを絡めてもいい塩梅だ。
なんだか、麺を喰っているのだが、スープというかタレというかが独特の食感のために、何を喰っているのか解らなくなる。
だが、上品な味わいで、スイスイと夏の暑さに弱った身体に心地良く入っていく。
「ん? なんか、あっという間、だな」
見た目と食感の濃厚さに反して、サラサラと食べれたこともあり、あっという間に具材はなくなり、麺も僅か。スープはそこそこ残っているか。
ならば、と先ほどメニューで見た。
「和え玉お願いします」
と追加注文をする。
このまま手を付けると食べきってしまいそうなので水を飲みつつ一息入れていると、和え玉がやってきた。
「ん? なんだ、これ?」
和え玉というか、軽く出汁のかかった麺が出てくるかと思っていたのだが、深めの茶碗に盛られた麺には、カイワレと刻み玉葱、そして、大量の魚粉。これだけで十分一品になる見た目だ。
替え玉の少し味付きを想像していただけに、驚きつつも、しっかり混ぜて麺を啜れば。
「おお、こってり濃厚だ」
こちらは、味が濃厚だった。なんというか、魚介油そば、といった感じだ。
タレがしっかりと麺に絡み、魚粉と薬味の味わいがプラスされ、単独で十分にしっかりとした味わいがある。
ついでに、冷たい麺をずっと食べていたので、温かい麺にすこしほっこりするのもある。
あと、結構な量がある。
ガッツリした味わいを楽しみ、せっかくなので残してあったタレに敢えて見れば。
「ああ、これで完全に濃厚だ」
食感も味も濃厚な麺に生まれ変わる。
そのまま、元の麺の残りを浚え。
和え玉をズルズルと食い尽くせば。
「ふぅ」
すっかり満腹だった。和え玉、ボリューム満点。サラッと喰えた限定の麺と、結果的に丁度いい組み合わせだった。
最後に、水を飲んで一息入れ。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、帰るか」
布施駅方面へと、足を向ける。
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