第272話 大阪市天王寺区舟橋町の味噌ラーメン(ニンニクマシマシアブラマシ)+野菜マシマシ(別皿)

「仕事終わり、か」


 自分で仕掛けた定時のアラームでタイムレコーダーをオンラインで押せば、どうにか格好が付くものである。


「運動不足、だな」


 世情を鑑みて在宅勤務が続き、どうにも運動不足だ。外出を控えるといっても、それで体が弱っては返って健康リスクが増大してしまう。


「少し遠出の散歩をするか」


 かくして私は、家を出て、テクテクと歩く。


「結構歩いたな」


 あてどなく彷徨い鶴橋まで到達したところで、


「腹が、減ったな……」


 せっかく遠出したのだ。このご時世に営業している店舗で何かを喰うのもいいだろう。しっかり対策をしていれば、いい。更に、医食同源。抵抗力の上がる食事を摂ればリスクは軽減されるのである。


「となれば、久々に行ってみるか」


 JR鶴橋駅の前を上本町駅方面へ、千日前通りを進んだところで右折すれば、目的の店はあった。


「流石に、空いているな」


 開店からほどない時間。先客は二組のみでこれならソーシャルディスタンスを保った食事が可能だ。


「さて、何を喰うか」


 前は醤油を喰ったし。


「今日は、味噌にするか」


 ついでに。


「別皿の野菜もいっておくか」


 野菜マシマシも購入する。そう、この店はソレ系だが、野菜マシマシは別料金というか、実質別皿野菜なのである。


 一つ空けてカウンター席に付いて、食券を出せばニンニクとアブラの量を問われるので、


「ニンニクマシマシアブラマシで」


 と詠唱する。勢いでアブラをマシたが、いいだろう。


 後は待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、イベントの谷間。無理せずおでかけを仕込むだけに留める。


 そうして、長い時を経て続刊が出た彼女と幼なじみと元カノと婚約者が登場するラノベを読んでいると、注文の品がやってきた。


「ああ、食欲がそそられる見た目だ」


 こんもり盛られた野菜の上には、丁寧に仕上げられたアブラ。麓にはたっぷりのニンニクと、角切りの大きな豚が二枚。別の器に盛られた野菜。


「いただきます」


 まずは野菜をスープに浸してみれば。


「おお、とろっとろだ」


 こってり乳化してトロトロのスープが絡んでくる。


 そのまま口に運べば。


「しっかりした味わいだなぁ」


 豚骨味噌なのだが、味噌がとても濃くコクがある。いくらでも野菜がいけそうな味わい。


 続いて麺を啜れば、同じく幸せな味噌の味わいが口内に広がる。豚を囓っても同じく。


 そこで、ニンニクとアブラをスープに混ぜ込んで、全体に味を行き渡らせ、改めて麺を啜る。


 こってりとパンチが足され、更に旨味が加速していた。野菜と麺がモリモリ進む。


 存分に味わったところで、


「そろそろ味を変えてみるか」


 この味なら、確実に一味が合う。ダバッと掛けて麺を啜れば。


「うんうん、期待通りの味わいだ」


 願った味が、口内に広がる。


 だが、それだけでは面白くない。


 胡椒も振り掛けて違うピリリとした刺激を加えれば、味に楽しみが生まれてくる。


 まだ、他にもあるのだが。


「これは、どうだろうか?」


 魚粉を軽く振り掛けて野菜と共に喰ってみるが。


「なるほど、これは別モノになってしまうな」


 それはそれでアリだが、今は豚骨味噌で行きたい。魚粉はそれ以上掛けず、一味と胡椒を振り掛けつつ食べ進む。


 そこで、


「この野菜を追加だ」


 別皿の野菜を放り込む。味が薄くなるのを見越してカエシが掛かっているのも嬉しい。


 再び増えた野菜を刺激的な豚骨味噌で味わう幸せ。それを麺で追い駆け、豚を食んで、存分に楽しむ。


 とても、満たされる。


 そうして、最後。


 麺も野菜も豚も食い尽くし。


 残ったスープをレンゲで啜れば。


「凄い重みだなぁ」


 アブラと調味料の数々が混ぜ込まれたとろっとろのスープは、この一杯の味わいが全て凝縮されて腹にずっしりくる。


 数口で、ずっしりがドスンときたところで。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


 糖と脂で満たされた心は明るい。


「さぁ、帰るか」


 素直に家路へと着く。

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