第270話 大阪市中央区日本橋のつけ麺中(ヤサイマシマシニンニクマシマシアブラ魚粉カラメ)

 このご時世。


 最大限の装備と注意を払い、日本橋まで出てきていた。業務用のPCのモニタが小さいため、可能ならテレワーク用のノートPCに接続するディスプレイを入手したかったのだが、以前店頭で見つけたサイズと価格のバランスが取れたものは、残念ながら売り切れていた。


 通販では手頃なものは入手困難で価格的に厳しいものばかりなので店頭に希望を掛けたのだが、通販で値段で折り合いがつくものがなければ諦めるか。


 用事を済ませた帰り、オタロードを通って少しばかり本を入手して、帰路についたのだが、


「腹が、減ったな……」


 恐らく、当分ここまで出てくることはないだろう。


 オタロードから少し北側の通りの店の前で、足を止める。


「持ち帰り……は、鍋とか持参か」


 できるなら持ち帰りも検討したが、資材は自分で持ってくる必要があるようだ。


 それなら、やむを得まい。


 大丈夫だ。細心の注意を払って免疫を高めるものを喰うのだから。


 店内へ入り、食券を購入する。


「ここは、余り家では食べることのない、つけ麺にしておくか」


 そうして、丁度L字の角の部分がスペースが開いていたので、そこへ陣取り、食券を出す。


「麺の量は?」


 つけ麺だしな。


「中で」


「ニンニクどうしますか?」


「ニンニクマシマシで、あと、ヤサイマシマシ、アブラ、魚粉で」


 と一通りのコールを済ませたところで、装備からアルコールウェットティッシュを取り出してあれこれと拭いてから、落ち着いて『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在は赤月ゆにコラボイベント中。そして、スコアアタックがリリー杯なのだが。


「先週、出撃忘れたんだよなぁ……」


 こんなことで、リリーコンプリートが途切れるとは……いや、復刻ガチャやイベント報酬できっと手に入る。だから、前を向こう。


 ということでおでかけを仕込んだりしていると、注文の品がやってきた。


「あれ? これは、やり過ぎたか?」


 最近は大人しめだったので、油断した。


 表面が湯葉のようになった、こってりスープ。


 そして、丼の三倍ぐらいの高さに盛られた野菜には、アブラと魚粉がたっぷりと。


 麓のニンニクと豚は見えるが、麺は全く見えない。


「大丈夫だ、問題ない」 


 そうして、慎重に野菜を崩して汁につけて喰えば。


「おお、見た目に違わぬこってり……」


 豚の出汁と脂の甘みに満ちたヌルヌルしたスープがガッツリ絡みついて、モヤシが超こってりした食品に生まれ変わる。


 掛かっていた魚粉で魚介風味を足しつつも、在りがちなつけ麺の豚骨魚介とは一線を画すオイリーさ。


「いいじゃないか」


 野菜を少しずつ崩し、ニンニクを交えてパンチを効かせながら、喰い進む。


 喰う。


 喰らう。


 喰った。


 腹の虫が落ち着いたところで、気づいた。


「まだ、麺喰ってない!?」


 そう。


 たっぷりの野菜で満たされそうになっていたのだ。


 これは、いけない。


 麺を引っ張り出し、つけ汁へ。


「旨い! だが……いや、いける」


 少々、胃の腑の負担が気になり始めていた。


 勢いで中を頼んでしまったが、いつも並だったじゃないか。


 それでも、頼んだからには喰らうのだ。


 モリモリと麺を喰らい、野菜を交えて豚をも囓る。


 文句なく、旨い。


 美味しい。


 が。


「丁度並と中の差分ぐらいだなぁ……」


 それぐらいの麺が残ったところで、一度箸が止まる。


 野菜は粗方食い尽くした。


 豚も喰った。


 後は、麺だ。


 主役だ。


 脂と糖でガツンと脳に多幸感を叩き込んでくるのは変わらない。


 だが、胃のキャパシティが若干心配だ。


 深呼吸して、食事と共に胃の腑に入った気体をゆっくりと吐き出していく。


「これで、いけるか」


 胃の中に出来た確かなスペースを感じ、再度麺を喰らい出す。


 脂ぎったスープでヌルヌルになった太くて固い麺をモキュモキュと食む。


 しっかり噛んで。


 少しでも消化をよくして胃の腑へと送り出す。


 焦ってはいけない。


 慎重に、それでいて味わうことを忘れずに。


 豚の旨味に感謝し、変化を与えてくれる魚粉に祈り。


「終わった、か」


 どうにか麺を喰らい尽くす。


 流石に、スープの中の野菜や麺の残骸を追い駆けるのは、辞めておこう。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「次からは麺は並にしておこう」


 そう、心に誓い。


 公共交通機関を避けるため、歩けるところまで歩くべく徒歩で帰路へと。

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