第259話 大阪市中央区日本橋のラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシアブラカラメ魚粉)
「ウィルス対策しないとな」
じわじわと蔓延する新種のウィルスは、他人事ではなく生活に影響を与えてきていた。
時差通勤、テレワーク、そして、各種イベントの中止だ。楽しみにしていたイベントが中止され、また自分も当事者として準備してきたイベントも、どうなるか解らない状況となっている。
それでも、人は、やれることをやるのだ。
今できることは、ウィルスのキャリアにならないことだ。たとえウィルスが体内に入っても、己の免疫力で殺しきれればいい。感染を拡大させずに済む。
そのためには、
「免疫力の上がる食べ物を、しっかり食べないとな」
という訳で、私は仕事帰りに難波の地に降り立っていた。南側の改札から出てなんばシティを抜け、道具屋筋を抜けて堺筋の手前の通りまで。
そこから南下してオタロードに至る手前に、目的の店はある。
若干の残業で開店から少し時間が経っていてすぐ入れるか不安だったのだが。
「お、空いてるな」
ちょうど最初のロットを食べ終わって出たタイミングで、すぐに入ることができた。
なんとなくカレーな気分だったのだが、
「あれ、カレー終わったのか……」
食券機にカレー終了のお知らせがあった。
「なら、基本でいこう」
ラーメンの食券を購入し、空いていた席へと。
店員に食券を出せば麺の量を尋ねられるので並と答え、続いての問い。
「ニンニク入れますか?」
今の私には愚問だろう。ウィルス対策にはニンニクだ。そのために来たのだ。
「ニンニクマシマシで。あと、ヤサイマシマシアブラカラメ魚粉」
と、詠唱を済ませる。
ん? 勢いで普段控えてるアブラを頼んでしまったが……まぁ、いいだろう。
後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はタワーイベントだが、中々タイミングが合わずはかどっていない。いや、リリーがね、いないとね、モチベがね……
という感じでおでかけをしかけたりグダグダしていると、時が流れるのは早い。
注文の品が、やってきた。
「これはこれは……」
丼が大きめなので、山の高さは低めだが、それでもしっかり乗った野菜。
山の頂上にはどろどろしたアブラに灰色の魚粉。
麓には、乱雑に切られた肉塊と、ニンニクが寄り添う。
スープは、油膜の層が見える濃度。
ああ、健康的だなぁ。
「いただきます」
まずは、スープに浸して野菜をバクバクといただく。カラメにしたのでくっきりした豚と醤油の味わいで食が進む。更に、脂の旨みと魚粉の香り。ニンニクの刺激。
リッチやマリリスやクラーケンやティアマトのごとき、味のカオスだ。だが、それがいい。
ある程度のところで麺を引っ張り出して啜れば、固くバッキバキの食感。噛めばモチモチとして、吸ったスープの旨みがしみだしてくる。
スープに浸して豚を齧れば、旨みが再充填されてよい感じだ。
「これなら、ウィルスなんて敵じゃない」
スープにしっかりニンニクを溶かし込み、麺麺ヤサイ豚と攻める。
一味唐辛子と黒コショウをぶっかけて、更なる高みを目指す。
ああ、喰っている。
喰っているから、生きている。
生を強めている。
これなら、負けない。
ウィルス対策、万全だ。
気が付けば、丼には脂が大量に浮いたスープに、野菜と麺の切れ端が残るのみ。
レンゲで少し追い駆けるが、少々アブラを増したスープは重い。残った固形物をある程度さらえたところで、レンゲを置く。
水を飲んで、一息。
名残を惜しみつつ、
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、帰るか」
しっかり喰ったら、しっかり寝ないとな。
早めに帰るべく、家路へと。
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