第258話 東大阪市長堂のチャーシューメン大盛(醤油 野菜大盛り からめ)

 布施ラインシネマが、今月で閉館となる。幼い頃から布施界隈で映画を観る機会の多かった身には、布施から劇場がなくなるのは寂しいものがある。


 ポイントカードの清算や溜まったポイントの消化もあるが、今日は布施に映画を観に行きたかったのだ。


「なんとか間に合うか」


 19時45分からの『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観ようと思いつつも、仕事が長引いてしまった。


 それでも、19時過ぎには布施に辿り着くことに成功した。


 すぐに劇場へ向かえば余裕だが、時間があると思うと。


「腹が、減ったな……」


 というわけで何かを喰ってから行くことにする。


 劇場のある近鉄布施駅の北西側に出れば、すぐそこに馴染みの黄色い目立つテントの店がある。


「うん、久々にここにしよう」


 道路を渡り、店に入る。


 カウンター席に着いてメニューを眺め、あれこれ考えたが。


「チャーシューメン大盛、野菜多め、からいめで」


 と注文する。夜はセットメニューが割高なので、大盛にしたのである。


 後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在は猫になった乙女や悪魔のタワーイベント。しかし、リリーがいないので今一モチベーションが上がらない。


 おでかけやら仕込んでいる内に時間が過ぎてしまい、出撃する間もなく注文の品がやってきた。


「なんか、見た目からホッとするなぁ」


 丼の外周に沿って隙間なく並ぶチャーシュー。タワーにはならないもののその上にたっぷり乗ったモヤシと刻みネギ。チャーシューの上にしみ出すように見える褐色のスープ。


 チャーシューメン、というイメージ通りのものだ。


「いただきます」


 いきなり中央部から箸をツッコンで、中細ストレート麺を引っ張り出してズルズルと啜れば、ガツンと豚骨醤油味。


 背脂系ではなく、醤油ラーメンの範疇の清湯豚骨醤油だ。


 この味は、派手さはなくも、度々無性に喰いたくなる、そんな飽きのこないものなのだ。


 このスープで、豚の旨みが詰まったチャーシューを頂くのも乙なもの。


 たっぷりのチャーシューを囓り、麺を啜りねぎとモヤシを楽しむ。


 胡椒を振り掛ければ、味が締まってまた違った顔を見せるのもよし。


「ふぅ、癒やされる」


 結構濃いめの味わいだが、こってりにはしていないので、いい塩梅なのだ。


 どんどんと胃の腑にぶち込んで腹の虫を楽しませる。


 映画前の時間。


 サクッと喰えるのもまた、麺の魅力。


 というわけで。


「もう、終わりか」


 貪るように麺とチャーシューを食せば、あっという間に固形物が丼から姿を消していた。


 残ったスープも、丼を傾けてゴクゴクといく。


 ゴトリ、と丼を戻し。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を出る。


「さて、劇場へ向かうか」


 店からほど近い布施ラインシネマへと、足を向ける。 


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