第257話 大阪市北区曾根崎の辛つけ麺(大)

「なんとか、観れそうだな」


 仕事帰り。難波で見逃し掛けた子鬼殺しの映画を梅田で上映していることを知り、慌ててチケットを確保していた。


 少し仕事が長引いたものの、まだまだ上映時間までは余裕がある。


 仕事を頑張れば当然のごとく、


「腹が、減ったな……」


 というわけで、映画の前に飯にしよう。


「劇場はブルク7だから東梅田近辺か……」


 とりあえず、お初天神方面に向かうがそこで閃く。


「久々に、あの店のつけ麺を食うか」


 新御堂筋に沿って南下し、大きな交差点に出る手前にその店はあった。


 半端な時間なのもあって、すぐに入れそうだ。


「さて、どれにするかな」


 入ってすぐの食券機の前に立つ。


 定番だったメニューがなくなって、もう何年になるだろうか? ついつい感傷的になるが、ここは


「辛つけ麺だな」


 大まで同料金なので、当然のように大を頼む。


 そうして、黒を基調とした木製のカウンターが厨房をぐるりと囲う形の店内入って右側のどん詰まりが空いていたので、そこに落ち着くことにする。


 食券を出してしまえば、後は待つばかりだ。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在、タワー攻略イベントが始まっているが今回もリリーの出番はないのか……などと思いつつ、おでかけを仕込んだりイベントの内容を確認していると時間が経ってしまった。出撃は微妙だな。


 などとウダウダしていると、注文の品がやってきた。


 が、そこですかさず。


「タマネギお願いします」


 と告げる。


 劣化しないように刻みタマネギが冷蔵庫に用意されていて、言えば無料で出して貰えるのだ。


「ふむふむ、赤い、な」


 刻みネギが浮くつけ汁は、辛味油で赤くそまり、そこに魚粉が掛かっている。


 麺は、ツルッとした太麺でその上に一枚ノリが乗っているのが趣深い。


「いただきます」


 まずは、そのまま麺をつけていただく。


「ああ、この味だなぁ」


 つけ麺の中ではやや甘めに属する味わいだが、なんだか関西らしい味で好みだ。ありそうでない味わい。


 今後は、麺に出して貰った玉ねぎをからめていただく。そのまま出汁に入れると冷めるので、ワンクッション置くのだ。


「ウィルス対策にもなるしな」


 と思いつつ、再び麺を喰らえば、ピリリと玉葱の辛味が加わっていい塩梅だ。


 また、こうしてどんどん麺を頬張っていくと、麺自体の旨味も出てくるのが嬉しい。


「ん? そういや、チャーシューか」


 麺に絡んで出てきたチャーシューは一枚の平たいもの。


「前はブロックだった気がするが……旨いからよし」


 豚の味がしっかりするチャーシューは、そのままつまみになりそうだが、今日は酒は控えるのだ。明日検査だからな。


 少しずつ玉葱を足してウィルス対策と刺激を足しながら、馴染むつけ麺をずぞぞずぞぞと堪能する。


 細かいことは考えず、貪るように楽しむのだ。


「ええい、もう全部ぶち込んでやる」


 残り少なくなった麺と、麺に搦み切らずに残った玉葱を、つけ汁に投入する。


 一気に全てを食し、汁が残るのみとなったところで。


「まだだ」


 玉葱を徐に追加し、席に用意されたポットから割りスープを注ぎ込む。


 大分冷めたスープから湯気が上がり、


「ふぅ、癒やされる味わいだが……ちょっとスープ入れすぎたか?」


 素の出し汁なので、入れすぎると臭みが少し出てしまう。


 が。


「いいものがあるじゃないか」


 卓上に胡椒があるのを見つける。


 バッサバッサと振り掛ければ。


「うんうん、いいぞ、旨味が引き立つ」


 味が締まり、玉葱とは異なる刺激が加わり、ほっこりする味がホットな味わいになる。それもまたよし、だ。


 ずずずっと啜って、最後まで。


「ふぅ」


 少し余韻に浸り、落ち着いたところで水を一杯のんで粋を着く。


 食器を付け台に乗せ、


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、子鬼退治鑑賞といきますか」


 劇場のある東梅田方面へと、足を向ける。




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