第247話 大阪市浪速区日本橋の豚骨味噌(野菜マシニンニクマシマシ)

「疲れているな……」


 年末年始の休み明け。


 どうにも調子が悪かった。


 この疲れ、前日の新年会で終電近くまで呑んでいたのが何か関係あるのだろうか?


 そんな状態だが、どうにか初日の仕事をこなして、帰宅の途へと。


 寒気を感じたり、喉がいがらっぽかったり。


「あかん、これは、ガッツリ食わんと」


 体調不良は喰って治す。医食同源だ。


 そういうわけで、ここはマシ初めと行こうじゃないか!


 かくして、御堂筋線なんば駅に降り立ち、南側から出て南海の線路沿いに南下し、途中でオタロード方面へ。


 オタロードに入ってしばらく南下し、左に折れてすぐにその店はあった。


「ありがたい、すぐ入れそうだな」


 少し早い時間が幸いしたのか、二つほど席が空いていた。


「さて、どれにするかだが……ここは、味噌にしよう」


 ツナマヨも気になったが、今は汁無しより汁有りがいい。寒いのだ。暖かいスープが飲みたいのだ。


 そうして、店内に入り、食券を出し、


「ヤサイマシマシニンニクマシマシで」


 と詠唱すれば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動してゆるゆるとロザリーステージを回していれば、注文の品がやってくる。


「ふむ、今日は大人しめだな」


 丼が大きいので、野菜は山という寄り大地のようになっているので背が低い。だが、たっぷりだ。


 寄り添うようにごついチャーシューと、ニンニクが麓を飾り、全体に脂が掛かっている。


 うんうん、健康になれそうだ。


「いただきます」


 スープを飲めば、ガツンとくる豚骨味噌の濃い味わい。


 疲れている体に染み渡る。


 野菜を浸して喰えば、また旨し。


 丼が大きいお陰で、麺への導線もとりやすい。


 そのまま、野菜と大蒜と豚を鎮めつつ、固く太い麺を引っ張り出して頬張る。


 至福だ。


 味噌と獣の出汁と脂に塗れた炭水化物の冒涜的な旨さよ。


 ヤクだ。


 薬だ。

 

 つまり、風邪に効くに違いない。


 段々と鎮めたニンニクが行きわたり、味わいにパンチが加わってくるのもよい。


 と、沈んでいた豚が浮上してきた。


 ややパサつきのある身の詰まった豚は、スープを纏って豚豚しい味わいにニンニクと味噌と豚骨が絡まって、うん、破壊力のある味だ。


 豚だ。豚になれ。


 麺を豚を野菜を、咀嚼しては胃の腑に落としこんでいく。


 ああ、今は、考えるな。


 カロリーとか、考えるな。


 この、食の幸福だけを感じていればいいのだ。


 満たされて行く。


 腹が、心が。


 健康になっていく。


 身体が、心が。


 それで、いいじゃないか。


 最後の豚の塊を囓り。


 残った野菜と麺の切れ端をレンゲで掬い。


 残るはスープのみ。


 それも、全体にしっかり纏わせて食い尽くしたことで、かなり少なくなっている。


 レンゲで一口、二口。


 いや、ダメだ。


 流石に、最後の理性を保つ。


 汝、完飲するなかれ、だ。


 わずかでもスープを残し。


 代わりに水を一杯飲んで気持ちを切り替え。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「少し、歩くか」


 オタロードを北上し、店を軽く見て回ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る