第244話 東京都千代田区外神田のこの野郎ラーメン

 早いモノで、冬も終わりが近づいている。

 こちらで過ごす最後の夜。


 アキバで旨い魚と旨い酒を楽しみ、最後の日に備えた後。


 心残りがあった。


「この素晴らしい野郎に祝福を……」


 コラボメニューを食い損ねていたのだ。


 幸い、こうなる可能性を考慮して〆は食わずにおいた。


 まだ、いける。


 なら。


「行くしかないな」


 かくして、中央通りを渡り、一つ裏の通りを進み、目的の店へ。


「並んでいるが、席は空いている……案内待ちか」


 ということで、列に入れば、聞こえてくる穏やかな、どこか郷愁を感じさせる歌。


 コラボを感じさせる演出に浸れば、順番はすぐにやって来る。


 店内に案内され頼むメニューは決まっている。


「この野郎ラーメン、並だ」


 さすがに、大盛以上はキツイ。


 食券を出せば、特典のステッカーを店員に手渡されてそのまま二階席に案内された。セルフの水を確保して一息。


 『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動してイベントステージを周回する。APは気にしない。報酬がリリーなのだから、活力の実を投入しまくって三度ほど出撃したところで、注文の品がやってきた。


 山盛りのモヤシの上にはキャベツがのせられ、細切りの唐辛子が添えられている。麓には、一口大に切られたチャーシューと、コーン。


 そして、


「うむ、いい表情だ」


 丼のサイズ以上の巨大な海苔には、防御に全振りした頼れるタンク役の女騎士が恍惚の表情を浮かべていた。


 中々思い切った演出だ。


「いただきます」


 まずは野菜から。炒められたキャベツは甘みが出て、旨い。そこにモヤシを包むようにしてスープを纏わせて食えば、いくらでも喰えそうな味わいだ。


 というか。


「味噌ラーメンか」


 コーンが乗っている時点でそうだろう。やたらこってりというかまろやかというか重みを感じるのは、ベースが白湯系だからか。


 比較的オーソドックスで居て、個性も感じる、中々面白い味わいだ。


 一口大の豚の味わいを加えるのもよし。


 続いて大きなメンマを囓って食べ応えを楽しんだあと、麺を引っ張り出す。丸い断面の太麺はモチモチとして、噛めば噛むほど甘みを感じるタイプで、味噌との相性もいい。


 ただ、たっぷりのコーンが入っているのもあって、全体に甘みが強く感じてきたので。


「ちょうどいいものがあるな」


 卓上の辛味あげ玉を投入する。


「辛っ!」


 結構唐辛子が効いているが、味噌ラーメンに唐辛子は相性抜群だからよし。


 モリモリと麺と野菜を食う。


 が。


「海苔、どうしようか?」


 余りに美事な偉容のため、食うのを躊躇していた。


 だが、これも食わねばならぬ。


 どうせなら、適切な方法で食うのがいいだろう。


「……スープ責め、か」


 という訳で、海苔を下に引っ張り、女騎士をスープに沈めていく。きっと、この女騎士なら喜んでくれるだろう。


 そう信じて、スープに海苔を沈めてしまうと、麺に溶け込んでいく。


「お、これはいいかも」


 海苔の風味が味噌にプラスされて、更に面白い味わいに。そうだな、巨大な海苔が乗ってくることは珍しい。それを贅沢に溶かし込む、というのは稀有な体験だろう。


 いい塩梅になってきたところで、スパートを掛ける。


 余り時間もないのだ。


 麺を野菜を豚をメンマをコーンを女騎士の溶けたスープを味わい。


 あっという間に丼の中には野菜の破片とコーンが残るのみとなった。


 一粒一粒コーンを救出していけば、釣られてスープも呑んでしまう。


 まったりとした味噌味。


 旨いが、濃ゆい。


 だが。


 汝、完飲すべからず。


 さすがに、これを飲み干すのは不味い。


 意志を持って、水を一杯飲んで未練を断ち切り。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


 店頭に流れるアニメの主題歌が、この素晴らしい世界の余韻をもたらしてくれる。


 しかし、帰らねばならないのだ。


 名残を惜しみながら、ホテルへと 足を向ける。

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