第243話 東京都台東区上野の小ラーメンヤサイマシマシニンニクマシマシカラメアレ

「ビッグサイトよ、また明日からも宜しく頼む!」


 冬だ。

 冬なのだ。


 私は東京ビッグサイトで一時を過ごし、水上バスで日の出桟橋へと向かっていた。


 水上バスの船内では、アサヒが関わっているのか普段呑まないようなものがある。今日は、琥珀の時間を呑み、更に限定のスパークリングワイン、ガンチア・アスティ・スプマンテがあったので、思わず頼んでしまった。


 正直、船内価格で値は張るが、戦いの後に海上で優雅な一時を過ごすためのフレーバーと考えれば、安いものだ。


 そうして、日の出桟橋から浜松町へ向かう途上で。


「腹が、減ったな……」


 既に昼時は過ぎている。遅めの昼は、明日以降の戦いに備えてしっかり食べておくべきだろう。


 更に、人の多場所にいたのだ。ウィルスなどの対策も考えるべきだ。そのためには、ネギ科の植物であろう。昔から首にネギを巻いたりするのは、その殺菌作用が経験的に認められていたからに他ならない。


 そして、ネギ科でもっと強力なものがある。


「よし、行ったことのない店に行って見よう」


 かくして、京浜東北線に乗り、御徒町に降り立つ。


 映画館の入ったビルの横を抜け、中央通りに出れば。


「あった」


 黄色いテントの目立つ店構えが目に入る。あそこだ。


 迷うことなく辿り着き、店内に入れば十人足らずの列があった。


 これぐらいなら、別にいいだろう。


 食券を買って待つことにする。


「小が250g、ミニが125gか……」


 麺の量が微妙だ。200gぐらいが丁度いいのだが……まぁ、それなら。


「小でいいな」


 小ラーメンの食券を確保して列に入る。


 待ち時間は『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』だ。現在のイベント報酬はリリーなのだ。500位以内に入らないと5枚揃わない。


 だから私は、ほんの一人ばかり諭吉さんの助けを借りて、なんとか30位ぐらいをうろつくことが出来ている。


 さすがにもう一人出ばってもらう訳にもいかないので、そこは手数で勝負だ。


 イベントステージに出て、順位をじわじわ上げていると、ようやく席が空く。


 セルフの水を確保して案内された席に着き、食券を出す。


 コールは、後のようだ。


 なら、続きだな。


 氷の悪魔の風邪引きというのも中々不可思議なものだが、寒がるリリーは珍しい。是非とも入手せねばならない。


 義務感に聖霊石や活力の実や果実を惜しみなく使い、林檎を集めて過ごせば、時間の経過は早い。


「ニンニク入れますか?」


 コールの時間がやってきた。


 色々考えていたが、


「ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ」


 そこで、席の前に貼ってある張り紙が目に入る。


 裏トッピング?


 なら、いくしかあるまい。


「アレ、で」


 最後にアレを追加して、コールを通す。


 ほどなく、麺がやってくる。


 丼の上に積み上がったもやしとキャベツの山。

 

 山肌に寄り添うように添えられた二枚の豚。


 麓に積もった刻みニンニク。


 そして、その横で紅い彩りを添えるのは……


「紅生姜、か」


 どうやら、日代わりらしいアレは今日は紅生姜だったらしい。


 見た目にも鮮やかだし、味も想像が付く。旨いしかない。


「いただきます」


 マシマシでもそこまでの量ではない(※個人の感想です)ので、食べやすそうだ。


 まずは、ヤサイを褐色のスープに浸して喰えば。


「お、なんか、上品だな」


 かつて、梅田にあり、やがて難波に移動し、消えてしまった某店を少し思い出す、どぎつくない豚骨醤油の風味だ。


 ヤサイもシャキシャキしていて食感もよい。


 旨い。


 スープを絡めた太麺も食べ応えがあり、いい。


 だが、ここからだ。


「混ぜないと、な」


 天地を返すのもやりやすそうなので、ニンニクを沈め、ついでに豚を沈めるようにして麺を引っ張り上げる。


 すると、細かいニンニク粒子が麺にヤサイに絡みつく。


 そうして、麺を啜れば。


「来た……これだ」


 先程の上品さは上辺だけのもの。圧倒的ニンニク臭。だが、ベースの豚の味わいは消えはしない。


 いいぞ、これならインフルエンザウィルスなんてイチコロよ。

 ニンニクマシマシはニンニクマシマシは私の胃袋に流れ込む…… 


 そのドギツサの中にあって、紅生姜だ。


「サッパリするなぁ」


 ニンニクとは異なるタイプの刺激が、いい塩梅なのだ。


 この系統に紅生姜、アリだな。アリオリハベリイマソカリ。


 ついでに、備え付けのブラックペッパーを掛けるのもよし。


「おっと、コイツを忘れてたな」


 沈めた豚に豪快に齧り付く。


 味付けされた煮豚ではなく、素直に焼き豚、か。豚そのものの味わいに、豚の出汁をニンニクやらの薬味の味わい。


 旨くないわけがない。


 ガツガツと喰らう。


 もう、このまま勢いだ……の前に。


「唐辛子もいこう」


 と振り掛ければ。


「お、粗挽きか」


 粉ではなく、皮が原型を留めた粗挽きの乾燥唐辛子だった。


「更なる風味か……これもまたよし」


 ニンニク、生姜、胡椒、唐辛子。


 風邪に良さそうなものばかりじゃないか! これなら、明日以降も戦える。


 豚を早々に平らげ、麺をヤサイを喰らう。


 いい感じだったが。


「辛い、な……」


 段々と口内に蓄積される刺激。


 それは、


「ニンニク、だな」


 旨味も勿論あるのだが、刺激が一定を超えて痛みになっているのだ。


 しかし、それは効いている、ということ。


 大は小を兼ねる。数と量は正義だ。


 過ぎたるは尚及ばざるがごとし? ちょっと解りません。


 口内の刺激もなんのその。


 残った麺とヤサイをバクバクと勢いを付けて平らげれば。


「ふぅ、終わり、か」


 スープと麺とヤサイの残骸が残るだけの丼があった。


「もう少し、追い駆けるか」


 レンゲで残骸を掬い取り、口へと運ぶ。


 こうすると、そこまで辛いと感じないのだが、後から刺激がやってくる。


 旨いのは旨いのだが、これ以上は、危険か。


 汝、完飲すべからず、だ。


 気持ちを切り替えるために、最後に水を一杯飲み干し。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にする。


「さて、アキバへ向かうのだが」


 中央通りを南に向かい始め、


「ヨーグルトで腸内細菌を補った方がいいな」


 タイミングよく現れたコンビニに、飲むヨーグルトを買いに入る。

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