第242話 東京都中央区人形町のつけ麺フュージョンニンニクヤサイショウガ

「また、冬が来たな……」


 昼下がり。


 東京へ到着した私は、上野公園でめがね之碑の参拝を終え、近隣で軽く一杯飲んで一息吐いていた。


「さて、夕食をどうしたものか?」


 今日はフリーパスを確保して映画を観る予定もあり、早めに済ませておきたいところだ。映画館にも近く、早めに空いている店がいいだろう。


「この近所でもいいが……そうだな。久々にフュージョンしてみるか」


 かくして私は、上野から中央通りを南下して、アキバへと。


 だが、目的地はここではない。


「さて、徒歩でいくかどうか……」


 悩ましいが、今回は少々疲れ気味なので電車に乗ろう。


 ヨドバシカメラの脇を通って東京メトロ日比谷線に乗り込み、人形町へと。


「確か、この辺だったな……」


 出口をでて、右に2回曲がると。


「お、あった」


 大きく店名が掲げられていて、間違いようのない店構えが現れる。


「って、さすがに早かったか……」


 開店時間まで、十分以上あった。歩いても丁度ぐらいのところを、電車で来たからな。


 ここは、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動してイベントを進めるなりするところだが。


「メンテ中、か」


 今日から新イベントなので、まだメンテが終わっていなかった。


 代わりに、週刊少年チャンピオンを読む。あ、遂に複数形のタイトルロールがでたな。


 などと思っていると、開店時間になった。


「さて、どのフュージョンにするか」


 狭い入り口入って左にこじんまりと設置された食券機の前で、しばし思案する。


 ラーメン、まぜそば、つけ麺にフュージョンが存在していた。


「ここは、つけ麺にするか」


 というわけで、つけ麺フュージョンの食券を確保し、厨房をL字に囲む狭い店内最奥のカウンター席へと着く。


 食券を出しても確認はなし。コールは、できあがってからのタイプのようだが。


「マシマシ、なくなったのか」


 無料トッピングの説明にマシマシNOとなっている。


 まぁ、いい。今はなぜだか正直マシマシを食い切れる腹具合ではない。なぜだろう? ついさっき特製メンチを食ったが、それが関係あるのだろうか?


 などと悩みつつ、チャンピオンの続きを読む。ラノベの卑猥に思わせる言葉遊びが過ぎるな、ふしぎ研究部。こういうときは高浜さんを呼べ。


 読み進めていると、そろそろコールのタイミングだが。


「ニンニクヤサイショウガで」


 とりあえず、全部言っておく。大丈夫だ、問題ない。


 かくして、注文の品がやってきたが。


「なるほど、こうなるのか」


 最初にきた丼には、褐色の出汁にモヤシとキャベツとごつい豚肉塊が入り、半分ほどの面積に赤い麻婆豆腐が掛かっている。隅には、刻みニンニクとおろしショウガが添えられている。麺は、太く不揃いのゴワゴワしたもの。


 多いは多いが、マシマシではないのでほどよいボリュームだ。


「いただきます」


 早速、麻婆と出汁を絡めて頂く。


「さすがに麻婆が強いな……って、結構辛い」


 なるほど、蒙古な感じの味わいである。いいぞ。


 この辛味には、シャキシャキしたモヤシとキャベツが箸休めになる。


 更に、ニンニクと生姜を混ぜれば。


「腹の底から温もるな……」


 生姜のお陰でほっこりするが辛いは辛い。


 麺を啜り、野菜を啜り、そうして、豚を囓れば。


「なんか、肉喰ってる! って実感できるなぁ」


 分厚い豚肉塊は、それだけでおかずのメインを張れそうなボリューム感があって嬉しい。


 なんというか、胃袋を刺激されてするすると喰える。


 麺と野菜をバクバクと喰い、肉塊を豪快に食む。


 幸福に浸りながら、食事を進めれば。


「もう、終わりか……」


 麺が終わってしまった。


 だが、スープがある。


 スープ割りというか、既に麻婆割りだ。


 そのまま、レンゲで啜る。


「豚骨醤油麻婆……」


 スープとしてそのままいける味だ。


 だが。


「なんだか、身体が熱いぞ」


 額に汗が滲んでいる。


 旨い。


 もう一口。


 また、熱が上がる。


 もう一口。


 旨い。


 熱い。


 あつ……うま。


「いかんいかん! 刺激に酔っていたな」


 やめられないとまらない味わいだが、このままではいけない。


 汝、完飲すべからず、だ。


 まだ少し残っているが、ここで終わりにしよう。


 最後に、水を一杯飲んで一息入れ。


 食器を付け台に戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「TOHOシネマズ日本橋を目指すか」


 北西に進路をとる。


 ところで、その後映画鑑賞中にしばらく汗が止まらなかったのは、なぜだろうか?

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