第238話 神戸市中央区楠町のチャーシューメン+ライス+発泡酒
「今日は盛りだくさんだったな……」
朝から家の用事を済ませ、午後は練習をし、夕方から演奏会を鑑賞。充実しているが、少々疲労も濃い。
こんなときは。
「しっかり喰わないとな」
演奏会の会場は大倉山の神戸文化中ホール。そう、大倉山だ。
神戸。大倉山といえば、今はなくなってしまったが学生時代に大学の最寄り駅前にあってちょくちょく利用していた店の本店があるじゃないか。
「久々に行くか」
ホールを出でぐるりと左側に回り込み、T字路にぶつかったところで右折。そうすると、ガソリンスタンドの向かいにその店はある。
「飯時だけに、並んでるな……」
四人ほどだが列ができていた。
河岸を変えるか? いや、今日はもうここの気分だ。
というわけで列に並び『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、五乙女の罪が突き付けられる輝亡の乙女の第四弾。カトレアのターンである。
そもそも、ゴ魔乙のメインキャラである五乙女は、基本的にその名前の少女の死体を神が動かしている、という設定だったりするのである。
どうしてそうなったか? というとネタばれはしたくないのでゴ魔乙をプレイすれば解るであろう。ゴ魔乙はいいぞ。
そんな感じで、イベントステージに出撃してアクティブポイントを稼いでいると、店員が出てきて先頭の二名を通し、続いて列に並んでいる状態で注文をすることになった。
深く考えてはいなかったが、今日はガッツリ行きたい。
「チャーシューメンとライス」
基本だろう。
だが、もう一声。
「ビールを」
と注文したのだが、
「ビールは瓶で、ジョッキは発泡酒になりますがどうしましょう?」
ということだ。
今は、ジョッキを煽りたい気分だ。
なら。
「発泡酒で」
何、元々ビールが苦手でどちらかというと発泡酒の方が好きなぐらいだ。
そうして、おでかけを仕込んでゴ魔乙を閉じたところで、早々に店内に通された。
幾つかの島に別れた店内の奥の島のカウンター席に案内されると、すぐにジョッキがやってきた。
「ふぅ」
一口飲んで息をつく。生き返る。酒は百薬の長だからな。
そうして、卓上に備え付けの小皿に沢庵を取って摘まむ。スライスではなく角切りでボリュームのある沢庵は、摘まみとしてとてもいい。
ボリボリ囓っていると、続いてご飯がくるが。
「流石に麺が来る前に沢庵でご飯終わらせるのもよろしくないな」
ということで自粛して少し待ち。
ようやく、麺のご登場だ。
「う~む、まごう事なきチャーシューメンだ」
丼の表面を完全に薄切りチャーシューが覆い尽くし、麺も具も全く見えない。
「いただきます」
見ていても腹は膨れない。
まずはレンゲでスープを啜る。
「なんだか、安心する味だなぁ」
豚骨醤油、ならぬ豚足醤油の無化調のスープは、獣臭さもなく、しっかり出汁の効いた味わい。
次は、チャーシューの下から麺を引っ張り出す。
「うんうん、このスープには細ストレート麺だな、やっぱり」
最近は太めが多かったが、スープを纏った細麺をズルズル啜るのが楽しい。
そして何より。
「薄いが、多いな……」
麺と共に囓っても囓っても存在をアピールするチャーシュー。これまた、タレなどの味は付いておらず、豚そのものの旨味。足りないモノはスープで補い、なんというか、シンプルにチャーシュー麺だなぁ、と実感する。
チャーシューの下から、ネギとモヤシがでてくるのも面白い。基本は、ネギもやしチャーシューというオーソドックスな構成なのである。
そうして、チャーシューを麺を頬張りつつ、ご飯で追い駆けると、もう、至福だ。これが、旨くないわけがないじゃないか。時々、沢庵を囓ると食感に変化も加わって尚よし。
基本の胡椒を振ると、味が引き締まってまたよし。
「さて、色々試すか」
基本を味わったところで、卓上の薬味に走る。
「まずは、フライドガーリック」
スプーンで掬ってガサガサと。
「次に、こがしにんにく」
見た目はそぼろのような茶色い粒の大きな粉をパラパラと。
「で、ニラ唐辛子」
をバサリと。
「なんだか、大変なことになっちゃったぞ」
チャーシューの上に、そのまま乗っかった状態だ。
「混ぜよう」
見た目を気にせず、チャーシューを沈めたり麺を引っ張り出したりして薬味を混ぜ合わせ。
「いただきます」
改めて食せば。
「パンチが効いてきたな」
元があっさりではないもののシンプルな構成のところに、ニンニクとニラと唐辛子の刺激がいいアクセントになっている。こがしとフライの異なる香ばしさもいい。
新たに加わった味で、麺をチャーシューを頬張る。
ああ、いい。
「なら、いっそのことこれもいこう」
おろしにんにくを、スプーン一杯プラス。
完全にニンニクラーメンだ。
だが、最近寒くて風邪に用心せねばならない。ウィルスなどの感染症も危険だ。
ニンニクはインフルにも有効だと医学的に証明されていた気がしないでもない。
だから、これは健康のための食事だ。
身体の内から浄化されていくのを感じる。
麺を、ご飯を食い。
それらがなくなったところで。
「……麺ライスマネジメント、しくったな」
チャーシューが二枚だけ、丼に残っていたのだ。
まぁ、いい。
無造作に二枚を一気に頬張り、最後の豚味を楽しみ。
残ったスープを、レンゲで掬い。
掬いきれずに丼を傾け。
残ったスープと麺とチャーシューの破片と沈んだネギやらの残骸を。
全て胃の腑に収め。
最後に、水を一杯のんで一息。
「ごちそうさん」
会計を済ませて、店を後にする。
「さて、帰るか」
食により疲労も少し回復した。まっすぐお家に帰ろう。
神戸駅へ、向かう。
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