第235話 大阪市天王寺区舟橋町のラーメン(並)ヤサイマシマシニンニクマシアブラマシ
「あと、一押し……」
体調が微妙な日々が続いているが、風邪薬をちゃんと飲んで寝たらどうにかこうにか持ち直してきた気はする。
だが、油断は禁物。
とはいえ、薬を用量用法以上に飲むのは愚の骨頂だ。
なら、どうするか?
医食同源、という言葉があるではないか。
喰って治すのだ。
そういう訳で。
「こんなところに新店としてオープンしたのか……」
以前は生野区で火曜日限定の二毛作営業をしていた店が、鶴橋で新店舗として独立したという情報を得たので、飛びつくことにした。
ここは、健康的な食事をできるタイプの店だからだ。
「お、そんなに並んでいないか」
仕事終わりでダッシュで来たお陰で開店直前についたのだが、その時点で三人が並んでいた。そそくさと列に入って一息吐けば、一分ほどの差でで五人ほどの集団がやってきたのだ。更に数人、続いてくる。
「ギリギリセーフ、といったところか」
などと思っていると、店が開いた。
細長い店舗は、厨房を入口側で少し折れたL字型のカウンターが囲むような作りになっていた。入ってすぐに食券機がある。
「色々とトッピングもあるようだが……ん? アブラマシマシとヤサイマシマシは別皿別料金、か」
でも、構わない。
今日は健康的な食事をしにきたのだ。野菜をしっかり食わずにどうする?
ということで、ラーメン(並 250g)とヤサイマシマシの食券を確保し、食券横のセルフの給水器で水を汲む。奥から詰めてということで、四番目のカウンター席に着いて、食券を出す。
野菜はマシマシだが、ニンニクとアブラは、恐らくマシまでは無料でいけると踏んで。
「ニンニクマシ、アブラマシで」
と思わず頼んでしまう。
あ、いつもはアブラはノーコールでデフォの状態に任せていたが、ついつい勢いでマシてしまった。
まぁ、いい。たまにはこういうのも悪くない。
あとは待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するのだが。
「今日から新イベントか」
『NieR:Automata』とのコラボイベントが始まるのだ。そのため、ソフトのアップデートをして、更新データを読み込んでとしてから起動する。
「今回はタワー攻略系か……」
とか思いつつおでかけを仕込んでいると、麺上げの気配。
どうやらそこまでのようなので、ゴ魔乙を終了し、到着を待つ。
ほどなく、提供されたのは。
「すごい乳化具合だ……」
野菜と大きな豚と刻みニンニクが乗っているが、マシマシの野菜は別皿なのでスープが見えているのだが、見るからにクリーミー。そういえば、店頭ポスターに『ド乳化』と書いていたが偽り無しだな。
「いただきます」
早速、レンゲでスープから行ってみるのだが。
「まろやかだ……」
あっさり、という訳ではない。だが、なんというか、この手の麺でよくあるガツンとくるタイプではなく、トロトロのスープに旨味が凝縮されている系。あれだ、天下に一つの品のスープに近い系統だ。
クリーミー豚骨スープに、今度は野菜を浸して喰えば、シャキシャキのモヤシ自体にも甘みがあり、相乗効果でとてもいい。
続いて、麺を引っ張り出せば、そちらはゴワゴワの太麺。噛めば噛むほど味わい深く、スープもしっかり纏って当然のように美味しい。
なんだろう? 系統はアレ系だが、とても繊細な方向性の味わいだ。
別皿の野菜を少しずつ入れてスープが薄まらないように注意して食しながら、大きな豚にかぶりつけば。
「甘露!」
とどこかの蜥蜴僧侶のような感想が浮かぶ。というか、角煮系の甘露煮だ。ここまでガッツリ甘辛い豚も珍しい。単体でつまみにもよさそうだ。
それが、クリーミー豚骨スープと合わさると、豚豚骨豚の味わいだ。言ってて意味が解らんが。
ここで、ニンニクをスープに混ぜ合わせて改めて啜るが。
「む、悪くないが、もう一声欲しいな……」
スープがまろやかな分、パンチが弱いのは致し方ないか。次は、マシマシできるか聞いてみるのもいいかもしれない。
とはいえ、全体としてはかなりの美味。
調味料を入れるのも控えていたが。
コショウを豚に軽く振りかけて、甘みに締まりを加えるのもよし。
唐辛子をスープに入れて、混ぜずにその一角をレンゲで掬いとって唐辛子の風味を加えるのもよし。
魚粉を振りかけて、やはり混ぜずにその一角をレンゲで掬い取って魚介風味で……
「おおう、つけ麺……」
あれだ、こってり系魚介豚骨つけ麺のスープに近い味になった。
これは面白いが。
「やはり、ベースの味を楽しもう」
そこからは、残りの野菜野菜麺豚を楽しみ。
固形物がなくなっても、大きめの脂が浮くスープをレンゲで啜り。
飲み干す直前に思いとどまり。
水を一杯飲んで正気に戻り。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「ふぅ、旨かった……」
まだ開店して一月も経っていないからか、味噌もメニューにあったがやっていなかった。新しいメニューができたら、またくるのもいいかもしれないな。
「さて、帰るか」
健康的で心も体も満たされる食の体験に感謝しながら、鶴橋駅へと向かう。
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