第234話 東大阪市長堂の半ちゃん焼飯定食麺大(醤油味 野菜大盛り 辛め)+生ビール

「いかんな……」


 あれこれやることがあって取ったはずが、体調が微妙で進捗が芳しくなかった。


 体調不良は喰って治す。


 どうにも、空腹が邪魔をする。


 有り合わせで何か創れないこともないが。


「なんだか、無性に麺を喰いたい」


 衝動が、襲ってきたのだ。


 幾つか候補はあるが、最近、折りに振れては喰いたいと思いつつ、機会を逃し続けている麺がある。


 ならば、行ってしまおう。


 かくして私は東大阪の入り口、近鉄布施駅まで足を伸ばしたのだった。


 近鉄布施駅の南西側に出てすぐ。


 斜め前に目的の店の黄色いテントが見えている。


 夕食時にはまだ少し早い。


 流石にガラガラだ。


 しかも。


「まだランチセットやってるんだよなぁ」


 この店のランチメニューは18時まで。これはとてもありがたい。


 という訳で、店に入って空いているカウンター席に陣取り。


「半ちゃん焼飯定食麺大、野菜大盛り、辛めで」


 とサクッと注文を済ませ……


「定食はメンマかキムチが選べますが」


「キムチで」


 と付け合わせも頼んで完了だ。


 後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するが、ここはそこまで出てくるまでに時間が掛かるわけではない


 おでかけを仕込んでいると、焼飯がやって来る。


 ほどなく、麺も上がってきたところで、


「生ビール、追加で」


 我慢出来なくなって頼んでしまう。酒は百薬の長だからいいのだ。


 すぐに、注文の品が目の前に並ぶ。


 褐色の清湯の麺には、チャーシューの上にこれでもかとネギとモヤシが載っている。


 八角形のいかにもな中華の器に盛られた焼飯は、焦げ目のない綺麗な米肌で、定番のチャーシュー、ネギ、卵に人参の赤がアクセントになっている。


 そして、ジョッキに入ったビールだ。


「頂きます」


 徐に、ビールをゴクゴクといく。


「生き返る……」 


 これだけで、少し体調が上向いてきたのを感じる。


 続いて、焼飯を喰らえば、ややあっさり目のオーソドックスな味わいが嬉しい。


 そして、まずはモヤシをスープに浸して頂けば。


「おお、ガツンとくるなぁ……」


 清湯の豚骨醤油。見た目の割に味はしっかり。こってりではなく、出汁と醤油でガツンとくるタイプの昔ながらの味わい。野菜が進む味だ。


 続いて、中細ストレートの麺を啜れば、しっかりとスープと絡んで安定感があり、飲み込めば心と体が満たされるのを感じる。


 そこで、スイッチが入った。


 ずるずると麺を啜り、焼飯を頬張り、あっさり目の味にスープを含んでみたりして、生ビールをグビリとやり、モヤシを囓りキムチを摘まむ。


 目の前の皿を、欲望に任せて貪るのだ。


 なんというか、幸せな一時だ。


 大盛にしたので麺はたっぷりある。


 チャーシュー麺ではないが、そこそこ入ったチャーシューには豚そのものの旨味が凝集されていて、ビールも進む。


 更に、麺を焼飯で追い駆けながら喰う背徳的な喜び。


 食べられるって素晴らしい。


 食の愉悦に浸る。


 そんな食べ方をすれば。


「もう、こんなに減ったのか……」


 焼飯とキムチは底を尽き、ビールは後一口程度。


 麺は、大盛だったお陰か四分の一ほど残っている。


「なら、少し変化を付けるか」


 卓上にあるニンニク唐辛子味噌を、投入だ。


 これは、余り早く投入すると味が完全に変わってしまうため、終盤まで入れるのを我慢するのが吉。


 という訳で、このタイミングならいいだろう。


 小さじ一杯程度の量を投入し、混ぜる。


 スープを啜れば、


「辛くていいなぁ」


 ここまでの塩辛さに、旨味を含んだ唐辛子の辛味が加わる。


 そちらが支配的にはなるのだが、この唐辛子味噌、余りよく溶けない。


 なので。


「上澄みは元の味、というのもまた楽しいな」


 底に味噌が沈み、且つ、辛めにして味が濃い分、まだ味が原型を留めているのだ。


 面白い。


 二層に分かれたスープで、残った麺を味わう。


 ニンニク唐辛子、豚骨醤油、それぞれの味わいが口内で一緒くたになっていく。


 麺は、すぐに胃の中に消えてしまった。


 残るはスープのみだ。


 戒めが脳裏を過るが。


 最後のビールの一口を呑んで。


 勢いを、付ける。


「行こう」


 丼を手に、ネギが浮くスープをゴクゴクといく。


「ああ、身体に悪そうな塩分過多な味わい……」


 つまりは、旨いのだ。


 どんどんと体内に入っていく旨液体。


 満たされる。


 ゴクゴク……ゴク、リ。


 最後の一滴まで、胃の腑に収め。


 水を一杯飲んで、口内の塩分を胃の腑に洗い流し。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にする。


「さて、帰るか」


 腹一杯。心も体も満たされて、家路へと。





 

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