第232話 大阪市中央区日本橋の塩ラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉カラメ)
季節の変わり目。
朝晩の気温差が激しく、ここのところの疲れもあり、少々体調を崩し気味でもあった。
こういうときは、健康的な食事をするに限る。
「と、いう訳で」
仕事を終えた私は、難波駅に降り立ち、日本橋方面へと歩き、オタロードへと続く道へとやってきていた。
「お、一番ノリか」
開店直前だが、店の前には人はいない。
邪魔にならない場所に立ち、チャンピオンを読みつつ待っているとポツポツと後続が現れる。
そして、ほどなく店が開く。
「今日は……うん、これにするか」
オーソドックスに行くか、まぜそばにいくか、と色々考えたが、自然と手が伸びたのは『塩ラーメン』だった。
そのまま、一番奥の席に通されて食券を出し。
「ニンニクどうしますか?」
「ニンニクマシマシで。あと、ヤサイマシマシ魚粉、カラメで」
とサクッと詠唱を済ませれば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在は、五乙女に罪を突き付けるイベント第三弾。今回はロザリーである。相変わらず、本編はヘビーなのが楽しい。水属性のステージは、それでもリリーを出撃させるのは当然であろうが。
そうして、ステージをクリアしたところで、麺上げの気配。
大人しく待つと、注文の品がやって来る。
「やっぱり、いい感じになったなぁ」
野菜の山が、いい感じに盛り上がっている。頂点には、魚粉と鰹節。麓にはごつい豚の肉塊と、大量のニンニク。
どこからどうみても、健康食品だ。
これを喰えば、風邪なんて吹き飛ぶだろう。
「いただきます」
まずは、雪崩を防ぐために野菜から。
「魚介の風味……」
魚粉と鰹の風味が効いていて、これだけでも旨い。
だが、ここで消費しきってはいけない。
魚粉と鰹をスープに溶かし込みつつ、野菜を喰らえば。
「優しい味だ……」
ガッツリ喰うつもりで来たが、醤油の尖りがなく、豚の味わいをトコトン塩で引き出したような味わいに、魚介が和の心を足している。
ガッツリどころか、ホッコリさえする味わいである。
柔らかな旨味でしばし野菜を楽しんだところで。
「頃合いか」
スープへの導線が見えた。
なら、いよいよ本題に入らねばなるまい。
レンゲで野菜を崩れないように抑えつつ、豚とニンニクをスープに沈み込ませるようにしながら。
麺を、引っ張り出す。
太くて堅い麺が、姿を現す。
たまらず、そのまま啜れば。
「ああ、素材の味わい……」
ここは他の店のスープに入れたくなるぐらいに麺自体が旨いのだが、塩豚風味が最高に麺の味を引き立てている。とても、贅沢な気分になれ、バキバキの食感で食べ応えもある。
満足感。
心が満たされる。
病は気から。
そういう意味でも、やはりこれ以上の健康食品はそうそうないだろう。
喰えば喰うほど、健康になっていくのを実感する。
ニンニクのパンチが加われど、ホッコリする味わい。
豚さえも、尖った部分が洗い流されて、柔らかい口当たりになっている。
ああ、穏やかだ。
心地良い。
だけど。
これで、いいのか?
このまま、やさしさに包まれていていいのか?
小さい頃しか神様がいなくて、不思議に夢を叶えてくれなくなっていいのか?
よくない!
不思議嫌いは弱虫子虫でズデンと叩かれて蹴飛ばされて深い谷底に落とされてしまうぞ! タバステウブサラシギシギシギシギ!
ならば。
「いかねば、ならぬな」
少々混み合って手の届かない、胡椒と一味の容器を席を立って確保し。
自席に一旦おき。
胡椒を、一面に振り掛け。
粗挽きの黒と白に表面が彩られたところに。
一味を更にバッサバッサと振り掛ける。
赤黒く染まる、丼。
再び席を立って、調味料を元に戻し。
席に戻れば、ずざっと、混ぜる。
優しかったスープに、赤と黒の斑が溶け込んでいく。
一口啜れば。
「ふぅ、いいねぇ、刺激的だ」
ガッツリ加わる胡椒と一味の辛さが、塩味を一気に尖らせてくれる。
新たな気持ちで、麺麺豚野菜。
これまでとは、趣が異なり、いとおかし。
優しいだけじゃ、ダメなんだ。
こういう、刺激が、人生には必要なのだ。
君の人生は輝いているか?
そう問われて、太陽に曝け出すぐらいの勢いが必要なのだ。
そうして、再び麺麺豚野菜、そして、スープ。
気がつけば、もう、固形物が、ない。
「これは、いけそうだが……」
そこで、心に過る戒め。
汝、完飲すべからず。
「そうだな、塩分を取りすぎだな」
レンゲで、数回啜って別れを惜しみ。
水をグイッと一杯飲んで、名残を断ち切り。
食器を付け台に戻して。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、予約していたゲームを確保しますかね」
店の前の道を南、オタロード方面へと、進路を取る。
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