第231話 大阪市浪速区日本橋の豚骨醤油(野菜マシマシニンニクマシマシ+青ねぎトッピング追加)
増間という漢に率いられた獅子のごとき勇猛な者どもで構成された隊の名前だ。
数々の戦場で武勲を重ね、誰もが畏敬の念を抱き、憧れていたという。
だが、その人数は常に十六人と定められており、入隊のためには一人を正々堂々倒して入れ替わるという方式が採られていた。
ゆえに、生き残った本当の猛者だけが集まっていたのである。
何故十六人かというと、四四の十六で力任せに突っ走っていたのだ。
がお、がお、が、がお……
「疲れているな」
唐突に頭に浮かんだ言葉を誤変換してしまった。
要するに、
「腹が減った」
ので、ガッツリ喰いたいだけである。
かくして、仕事を終えた私は、御堂筋線なんば駅に降り立っていた。
幾つか候補はあるが、今日は漢な感じのあの店にしよう。
雨の降る中、サクサク歩いてオタロードへ到達。そこから南下してしばらくして、東へ折れたところが目的地だ。
「お、空いてるな」
タイミングが良かったのか、すぐ入れそうだ。
店頭の食券機の前に立つ。
「味噌やツナマヨにも惹かれるが……ここはオーソドックスに行こう」
基本の豚骨醤油の食券を確保。
「ただ、それだけというのも芸がないので、足すか」
トッピングのネギを追加。前から気になってはいたのである。
準備が整ったのでこじんまりしたストレートのカウンターだけの店内に入り、一番奥の席に着く。
食券を出し、
「トッピングはネギで」
と最初に伝える。食券、実は、青ねぎorバターとなっているのである。
次に、
「野菜マシマシニンニクマシマシで」
と簡単な詠唱をすれば、後は待つばかり……と思ったら、早々に小鉢に山盛りの青ねぎがやって来る。なるほど、好きにいれろ、ということか。
気を取り直して、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はハロウィン的なイベント中だが、リリーがおらぬ。それでも、ゆるゆると出撃して最低限の進行はしている状態だ。
あれこれ状況を確認し、おでかけを仕込んで、出撃をしようかというところで、麺上げの気配を感じたのでゴ魔乙を終了する。
予想通り、すぐに注文の品がやってきた。
「そそるねぇ」
以前より幅広になったことで山は低くなっているが、マシマシの野菜の量は十分。
頂上には脂の雪が積もり、麓にはニンニクの雪が積もる。斜面に寄り添うのは巨大な厚切りチャーシュー。
「いただきます」
まずは、スープを。
「う~ん、これだ」
豚骨醤油というか、とても旨味の強いガッツリ系の味わいが心地良い。
そこにもやしを浸せばいくらでも喰えそうな塩梅。それだけでなく、
「ネギだ」
ネギを振り掛ければ、ちょっとしたアクセントになっていい。
また、裾野が広くなったお陰で、麺への導線もある。
すぐに固くて太くてバキバキのしっかり汁を纏った麺を啜れば、当然、
「旨い」
ふぅ、やっぱり、マシマシして正解だ。
癒やされる。
だが、今を癒やしても仕方がない。
「混ぜるか」
レンゲと箸で、麺を引っ張り出し、豚を鎮めてニンニクを混ぜ込んでいく。
混ざったところで麺を啜れば、ガツンとくるニンニクのパンチ。
「これこれ」
脂が混ざってまろやかになったりもしているが、やはり、尖る。
その味で、そのものの旨みがしっかり出た豚を囓るのは至福と言っていい。
更に、ネギを振り掛ければ完璧。
ニンニクとネギの力で、風邪などの感染症とはおさらばだ。
「まごうことなき、健康食品だ」
ありがたく、明日の健康を祈念して豚麺麺野菜ネギを楽しむ。
元気の味だ。
モリモリと食えてしまう。
ときおり、唐辛子や胡椒で刺激を足すのもいい。
野菜麺麺豚ネギ。
存分に楽しんだら。
「あれ、もう、終わりか」
丼が大きくなった分、食べやすくなったのもあるだろう。
もう、スープの中に麺や野菜の切れ端が浮かぶだけになっていた。
早い、早過ぎる……
だが、終わりを受け入れねばなるまい。
名残を惜しむように、スープをレンゲで飲めば、かなりのパンチだ。途中に入れた唐辛子や胡椒も利いているが、やっぱりニンニクのパンチが効いている。
旨い。が。
汝、完飲すべからず
だ。
戒めを胸に、レンゲを置き。
水を一口飲み。
レンゲを手に取り。
スープを一口飲み。
って、違う。
レンゲを置き。
水を一口飲み。
レンゲを手に取り。
スープを一口飲み。
って、違う違う。
レンゲを置き。
水を一口飲み。
レンゲを手に……取らず。
水を最後に一杯飲み干し。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「危なかった……」
危うく戒めを破るところだったが、無事に脱出できたことを僥倖と、家路を辿る。
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