第230話 兵庫県西宮市南越木岩町のたろちゃんらぁめん+ごはん

 今日は練習のために、普段行かない苦楽園口へと赴くことになっていた。


 午後一時からの練習ということで、家で昼を喰うのも忙しない。早めに現地へ向かって喰うのが正解だろう。


 かくして、十二時過ぎに苦楽園口へと私は降り立っていた。


「結構、色々な店があるな」


 落ち着いた住宅地という趣で、それに合った店構えが並ぶ。


 そんな中に。


「お、この店が、あるか」


 そこは、神戸三宮に本店のある、兵庫県下で展開するチェーン店だ。


 かつて、母校の最寄り駅にあったこともあり、馴染みのある店でもある。


「これは、いくしかないな」


 黒を基調とした内装の店内は、真っ直ぐなカウンターと、テーブル席が幾つかのこじんまりした落ち着いた雰囲気だった。


 空いていたカウンター席へと案内され、メニューを見る。


「トマトカレーとか、惹かれるなぁ」


 とても旨そうだ。だが、なんというか、久しぶりなだけに基本の味を楽しみたい。


 ここは、いつも通り、


「たろちゃんらぁめんを」


 でいこう。まぁ、要するにトッピング全乗せの特製ラーメンである。


 ただ、それでは物足りないので、


「あと、ごはんを」


 と、追加する。


 更に、


「生ビールを」


 何せ、今日は少し暑いから喉が渇いていたのだ。


 これで、注文は通したつもりだったが、


「麺を大盛りにできますけど、どうしますか?」


 と聞かれては、


「大盛りで」


 と答える他あるまい。


 さて、これで注文は整った。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動したのだが。


「そういや、道中でAP使い果たして、おでかけも仕込んでいたな……」


 特にできることもないのでそっ閉じである。


 代わりに、ゴブリンを殺す冒険者の物語を少し読み進めていると、ゴールデンコーラ(隠語)がやってきた。


 ついでに、麺を頼むとサービスで付いてくるキムチも。


「おお、これは、呑め、ということだな」


 小皿にキムチをとり、摘まみながら黄金色の液体を喉へ流し込む。


「いいねぇ。渇きが癒やされる」


 練習に向けての鋭気が養われるのを感じていると、ほどなく麺もやってきた。


「豪勢だ」


 大ぶりの炙りチャーシュー、味玉、キムチ、ネギ、海苔と一通りのトッピングが揃っている。スープは、薄褐色の白湯。麺は細ストレートだ。ごはんと並べば定食の風情だ。


「いただきます」


 まずはレンゲでスープをいただけば。


「そうか、こういう味だったな」


 見た目の割にこってりというよりはクリーミーという印象のスープ。鶏と豚だろうか? とにかく、個性的でまろやかな味わいだ。


 その味で、ご飯が進む。


 と、主役を頂かねば。


「うんうん、スープに合う」


 細いストレートな麺は、シンプルにスープを持ち上げて素直に旨味を伝えてくる。


 次にチャーシューを囓れば、柔らかくもしっかり甘いタレの味がする、単品で摘まみになるタイプのものだ。勿論、泡立つ麦ジュースで追い駆けるのも忘れない。旨し。


 海苔は、スープに浸してご飯を巻いて食べる。横浜の方の麺の食べ方な気がするが、こちらは神戸。港町繋がりだからいいのだ。横浜ほど強いスープじゃないけれど、これはこれでいける。


 ここで、キムチを挟むのもいい。乗っているのも、サービスで出てきたのも同じ店の自家製キムチだ。辛味はほどほどでどちらかというと旨味で甘いぐらいだ。それが、クリーミーなスープと合わさると、少々甘みが立つがこれはこれで悪くない。


 何せ、金に輝く飲物で流し込むのがいい。


 そこで、味玉だ。しっかりと表面が茶色くなるほどタレの染みた卵も、やはり旨く甘い。


 なんというか、関西の味だ。しょっからいより、旨みで甘い。地元に根付いた味といえよう。


 ごはんともよく合う。


 しかし。


「多い、な」


 大盛にしたことで、麺が中々にボリューミーだ。 

 

 水を飲んで一息吐いて、ペースを落とす。


 何、まだ練習まで時間はある。


 急がず、食べられるペースで喰えばいいだろう。


 じっくりと、麺を啜り。キムチを囓り、チャーシューを食む。卵はもう食べてしまっていた。炭酸麦茶も終わっている。


 食の進む旨味のお陰で、箸が止まることはなかった。


 ならば、終わりは訪れるというものだ。


「終わり、か」


 丼には、スープのみが残っていた。くちくなったお腹では、流石に完飲は控えようという気になるが。


 一口。


 二口。


 名残を惜しみ。


 水を一杯飲んで口内をリセット。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて、店を後にする。


「さて、練習場所に向かうか」


 初めての場所だが、まぁ、迷わないだろう。


 恐らくそちらという方向へ、足を向ける。


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