第229話 大阪市中央区難波の魚郎らーめん

「疲れた、な……」


 どうにかこうにか仕事をこなしたものの、昨夜少々遅くなってしまったのがいけなかったのか、ヘトヘトになっていた。


 重い体を引きずって、どうにか難波の地に辿り着いたところで。


「家に帰って作る体力もないし、何か喰って帰るか」


 という訳で、難波駅を出て、地上へ。


「ん? そういえば、ここはまだ行ったことがなかったな」


 鳴り物入りでオープンした、家電量販店のビルだ。難波駅の駅を出てすぐの場所に9F建てというのは、中々剛毅と言えよう。


 その最上階には、ラーメンパークとなっており、全国各地の有名店が店を構えているという。


 今日は疲れているからこそ、ガッツリと。


 そういうものを求めて、エレベーターへと乗り込んだ。


 最上階に着き、降りて目の前に。


「三四郎!?」


 一瞬、時代を先取りしすぎてハードから撤退を余儀なくされたゲームメーカーに見えたが、少し字の並びが違う店が、すぐに目に入った。


 店頭の食券機を見れば、どうやら煮干し系の店らしいのだが。


「魚郎らーめん……だと……」


 もう、これは、アレだろう。


 という訳で、少々値が張るが、食券を確保して店内へ。夕飯時前というか仕事終わりでも早い時間だったからか空いており、好きな席にということで入ってすぐのカウンターに陣取った。


「コールはあるのだろうか?」


 店内を見るも、案内はなく、そうこうする間に店員がやってきて食券を出す。


「ニンニク入れても大丈夫ですか?」


 微妙な聞き方だったので、


「はい、入れて下さい」


 と普通に答えて、オーダーを通す。


 まぁ、いい。


 後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するほかあるまい。


 現在は、異世界召喚(?)的なイベントで魔王メルセ・デスとの戦いだ。決して、メルセデス先生ではないというか、こういうのもアリというのがゴ魔乙の世界の楽しさであろう。リリーの出番がないのが哀しいが。


 とか思いながら、出撃して想いをそこそこ稼いでいると、麺上げの気配。ゴ魔乙を切り上げて待てば、すぐに注文の品がやってきた。


「ああ、なるほど」


 山というほどではないが丼表面を覆う程度の燃やしとキャベツ。その頂上に刻みニンニク。これも匙一杯もないぐらいの穏やかな量。麓には、隅に焦げ目のついた炙り大きなチャーシューが四枚ほど。


 そして、


「凄い、脂だ」


 スープの表面をこれでもかと覆うのは、もろもろとした背脂だ。


 まぁ、いい。


「いただきます」


 レンゲを手に、まずはスープを。


「お? これはこれは」


 獣系のジャンク感がありつつ、根底には脂に負けないだけの魚介の和風の旨味が溢れている。


 麺を引っ張り出せば、この手のものにしては細めながらバキバキとした固めのものが現れる。そのまま啜れば。


「なるほど、アレとは違うが、これは、いける」


 メインが煮干しだけあって、圧倒的な魚介感。なのに、脂と醤油でしっかりアレっぽさもある。


 おかしな表現だが、丁寧に表現されるジャンク味だ。


 シャキシャキしたモヤシとキャベツも、柔らかめで豚の旨みに溢れたチャーシューも、このスープによく合う。


 しばし食べ進めたところで、


「玉葱、いくか」


 席に置いてあった容器から、刻み生玉葱を投入する。いきなり入れすぎるとスープが冷めるのに慎重に、だ。


「うんうん、玉葱マシマシでもいけるな」


 ニンニクがそこまで入っていない分、玉葱の刺激が嬉しい。少しずつ加えて、楽しんでいく。


「と、少し薄まってきたか」


 野菜が多いと、どうしても時間と共にスープの味がぼやけ始める。


 そこに。


「ガツン汁……ってカエシだよな?」


 と思いつつ、レンゲにスープを入れたところに少し垂らして試せば。


「うぉ、すげぇ魚介!?」


 どうやら、出汁醤油のようだ。それも、かなりガッツリ魚介出汁。なんというか、これで卵かけご飯とか納豆とか、最高じゃないか? と思える、そんな味。


 これなら、しょっからさだけでなく旨味も加わっていいだろう。


 軽く回しかければ。


「うんうん、いい感じに味の輪郭線が戻ってきたぞ」


 かくして、再び麺を野菜をチャーシューを玉葱を楽しみ。


「ここで、辛味もプラスだ」


 一味を加えれば。


「ああ、なるほど、こうなるか」


 唐辛子が風味のいいものなのもあるが、ラーメンというよりは和蕎麦的な辛味追加となった。


 いいぞ。心身が温まる唐辛子風味だ。


 そうこうしていると。


「ああ、もう、か」


 マシマシがなかった分、終わりも早い。


 麺もチャーシューも野菜も姿を消し。


 背脂塗れのスープが残るのみ。


 名残を惜しみ、レンゲで掬っていて、ふと、気づく。


「ガツンカレー?」


 唐辛子と同じ容器に入ったそれを、何となく振り掛けて観れば。


「カレー、だな」


 これは、最後で正解だろう。


 魚介風味の強いカレー味は、カレーうどん系の味わいだ。


 とはいえ、元の出汁がいいので、中々上品なカレーともいえる。


 追い飯が欲しいところだが、何気にボリュームはあったのでお腹はパンパンだ。


 カレースープとしてしばし楽しみ。


 完飲は流石に控えて。


 水を一杯飲んで気持ちを落ち着け。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「ふぅ、いい味だったな」


 少々値は張るが、その値打ちはあっただろう。


「他の店も覗いていくか」


 ラーメンパークの奥地へと、足を向ける。


 




 


 

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