第228話 大阪市浪速区難波中の醤油らーめん+からあげフルセット(焼き飯)+生ビール

「腹が、減った……」


 仕事を終えた私は、騒ぎ立てる腹の虫に苦しめられていた。


 昼が少なすぎたのだ。仕事終わり間近は若干貧血気味といってよいありさま。


 こういうときは、しっかり喰うに限るが。


「どうせなら、シンプルなのが喰いたいところだ」


 ここのところ、ガッツリ形ばかりだったので、シンプルなモノに色々合わせる方向がいいだろう。


 なら。


「あの店に行って見るか」


 かくして私は御堂筋線難波駅に降り立ち、南側の改札を出てオタロード方面へ向かいつつ、一本手前の道で南へ折れる。


 すると、右手の向こうの角に目的の店が現れる。


「すぐ入れそうだな」


 流石に、空腹を抱えて定時ダッシュしてきたところだ。夕飯で混み合うには早い時間だろう。


 店に入り、店員に通されて適当なカウンター席へ。


 メニューを眺めれば、豚骨、塩、醤油、つけ麺、まぜそばとなんでもござれ。


 サイドメニューも豊富だ。


 迷いそうなところだが、シンプルにプラスアルファ、となれば。


「醤油らーめんと、からあげフルセットを……」


 天津飯と焼き飯が選べるようなので、


「焼き飯で」


 と注文を通したところで、少々今日は汗をかいている。


「あと、生ビールを、食事と一緒に」


 これで、注文完了だ。


 後は待つばかり、と思いきや。


「色々付け合わせがあるんだよなぁ」


 店の一角に並ぶ、いりこ、高菜、キムチ、にんにく、玉葱の容器。『薬味バー』といったところか。


 中々いい感じだ。


 私は迷わずそこへむかい。


「ちょっと、やりすぎたか……」


 テーブルの小皿に盛られた、いりこ、高菜、キムチ、にんにく、玉葱を眺めて思う。


 ともあれ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。どうやら、更新中だったようで更新版をダウンロードして起動して、とやっている間に、注文の品がやってきてしまった。


「黒い、な」


 まずは麺と凍ったジョッキに入ったビールがやってくる。醤油らーめんは、なると、刻みネギ、メンマ、チャーシューというオーソドックスな具材なのだが、とにかく、スープが黒い。


「なら、早速」


 れんげでスープを掬い、一口。


「まろやか……」


 最初に、魚介の香りが立つ。というか、いりこ出汁だ。その後に、上品な鶏系の出汁が追い駆けてくる。見た目の黒さに反して、とてもまろい口当たり。


 端的に言って、旨い。


「そうそう、こういのでいいんだよ」


 豚骨醤油やらポタージュ系やらが続いたのもあって、とても嬉しい。


 その口に、冷たいビールを流し込めば。


「ふぅ……いいねぇ」


 仕事の疲れが流れ出していく。


 旨いスープで腹の虫も期待に鳴りを潜めるところに、中太ストレートな麺を啜れば間違いないスープとの相性。ほどよい歯応えと麺の風味が心地良い。


 チャーシューを囓ってみれば、ホロホロ崩れる柔らかい触感に甘辛いタレの味わい。これも、スープといい相性だ。ときおり絡んで来るネギの刺激もいい。


 そこに、サイドで頼んでいたからあげと焼き飯がやってくる。


「からあげは、ジューシーではなくカラッとした系か」


 サクサクした衣を箸で摘まんで一口囓れば、締まった食感。


 少々衣が吸った脂がキツイのは置いておけば、鶏の味。


 つまり。


「うん、塩、いるな」


 という訳で薬味バーにあった『からあげ用』と書かれた味付き塩コショーをバサッと掛ければ。


「そうそう、やっぱり、こういうのでいいんだよ、こういうので」


 なんとも解り易いからあげの味わいになった。


「こっちは……」


 玉子、ネギ、チャーシューのシンプルな焼き飯を喰らえば。


「そうそう、これも、こういうのでいいんだよ、こういうので」


 何というか、飾らない焼き飯の旨さだった。


 どこまでも飾らないサイドの中、


「このスープは、珠玉だなぁ」


 だからこそ、薬味を入れるのは控えて、高菜とキムチはビールの摘まみに。


「うん、これはいけるな」


 玉葱はれんげに入れてスープに浸して単体で味わい。


「追いいりこ、これもありだな」


 スープを含んだ口でいりこを囓る。


 これはこれで、アリだ。


 が。


「にんにくだけは、どうしようもないな」


 小さじ一杯ぐらい持って来てしまったが、箸に摘まめる程度だけ入れて、調整する。


「うんうん、これぐらいなら、いいぞ」


 風味を損なわず、ニンニクで少しパンチが効いてくる感じになった。


 とはいえ、これ以上はダメだ。


 なら。


「ええい、こうだ」


 からあげを、刻みニンニクに付けて喰う。


 と。


「まぁ、あり、か」


 からあげの衣に入れたりするし、合わない訳がなかった。


 という感じで、サイドを楽しみビールを呑み。


「もう、終わり、か」


 思うさま喰えば、終わりも早い。


 からあげも焼き飯も空になり。


 丼の中も刻みネギとスープが残るのみ。


「これは、飲まないとやってられないな」


 丼を持ち上げ、ずずっと啜ると。


「ん? ゆず?」


 どうやら、ネギに紛れてゆずが入っていたようで、色んな味で賑わった口内に爽やかな風が吹いたような心地に。


 いいサプライズだ。


 そのまま、一気にスープを飲み干せば、なんだかすっきり。


 ここでゆずとは、やるな。


 最後の最後まで楽しんだ。


 満足感に浸り。


 水を一杯飲んで一息吐いて。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を出る。


「さて、少し買い物していくか」


 進路を東、オタロードへと向ける。




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