第208話 大阪市大正区三軒家西のたまらんらーめん(野菜麺ニンニクマシ)
「京セラドームか……」
雨天中止でアニメが放送される希望を打ち砕いたドーム球場は不倶戴天の敵と認識している私である。
だが、本日は、始めた年から数えれば30年の趣味であるTRPGの大々的なイベントの前日祭が開催されるのでドーム球場の上層階のホールへと赴くことになっていた。
「かつて、仕事の慰労イベントで行ったことはあるが……」
飲み食いしながら野球観戦できる、恐らく野球が解る人には垂涎の席だったのだろうが私には野球が解らぬ。だが、音楽は解る。結果的に、試合は一切見ないで応援の吹奏楽演奏が段々疲れてピッチがずれてくるのを鑑賞して「応援演奏って大変だなぁ」と感じた想い出しかない。
それはさておき、京セラドームは大正駅にある。いや、ドーム駅できてるけど、行ったの昔なんでそういう印象だ。
「大正駅といえば……気になってる店があったな」
かくして私は、昼食を取ってからイベントへ向かうべく大正駅へ早めに向かったのだった。
「えっと、この辺か」
環状線ではなく、長堀鶴見緑地線の大正駅で初めて降りて北側へ向かい、尻無側の南側を環状線の線路方面に向かってしばし。
「お、あった」
目的の店はあったが、一つ奥の道で真っ直ぐ迎えない。
環状線の線路沿いまで出て少し南に下って細道に入ったところに、その店はあった。
ここはそれ専門ではないが、黄色いテントは意識してのことだろうか?
幸い、空いているのですぐ入れそうだ。
早速入ることにする。
L字に厨房をカウンターが囲む形の定番の店内に入り、すぐ左手の食券機に向かう。
「ここは、これいっとかないとな」
辛味噌や黒麻油などに興味を惹かれるが、基本と思われる食券を買って空いているカウンターへと。
食券を出し、
「野菜麺ニンニクマシで」
と発注する。そう、マシマシはできないが、全て大盛無料なのである。
ここまで済ませれば、後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
現在はスポーツイベント。福袋で難なくリリーを確保して、後はのんびりアクティブポイント稼ぎ中。
だが、道中でAPは尽きていた……適当におでかけを仕込むに留め、三連休で土曜発売のジャンプを読むことにする。
人類石化の影響で文明が失われた世界に科学の力で文明を取り戻していく話を楽しく読んでいるところで、厨房で野菜を積み上げる作業が見えた。
頃合いだろう。
ほどなく、注文の品がやってきた。
「ふむ、いい感じだ」
艶やかなもやしとキャベツの山。麓の刻みニンニクと味玉、ほぼ野菜に埋もれたトロトロに見える豚。
典型的なアレ系だ。
「いただきます」
マシなのでスープへの導線が最初からある。早速レンゲでスープを頂けば。
「お、まろやか」
濃いめの背脂豚骨醤油味。こういうのにしては醤油がガンガンに立っていない、関西向けの味とも言える。
「なるほど、大阪の味だ(※感想には個人差があります)」
そのスープに浸した野菜もまた、いける。シャキシャキした食感もいい。
量もマシでほどよい。(※感想には個人差があります)
早々に野菜を沈めてニンニクを全体に行き渡るように箸でつまんでちらし、豚を沈めて麺を引っ張り出す。
「おお、いいねぇ」
スープで黒みを帯びた黄色い太麺。これはたまらん。
脂が馴染んで味わいもよい。
天地が返ったことで露出した炭水化物を、欲望に任せて口に放り込む喜びよ。
「段々、効いてきたな」
麺に絡んで、スープに潜んで、ニンニクが主張しだしたのだ。
これがまたいいが、刺激が強い。
そこで、
「味玉だ!」
まろやかな黄身の味わいで中和。コレステロールを気にして独り暮らしを始めてから玉子を買ったことがない身としては、貴重な味わいだ。以前は白身だけ食べて黄身は残していたのだが、最近の研究で卵だけを気にしないでよくなったので、こういう機会でだけは喰うようにしている。
ゆえに、本当に貴重な味わいなのだ。ぶっちゃけ、鯨の方が確実に回数食べてるぐらい玉子食べない。
そのレアな味わいとニンニク。最高だ。
だが、一つキリなのですぐ終わってしまうのが難点だがな。
と思ったのだが、
「ん? 妙に濃厚だと思ったら……」
どうやら、トロトロになった豚が、スープにほぼ溶け込んでいたらしい。
「豚骨醤油に豚が合わない訳がないな」
豚の身の旨味がスープに加わってこってりアップ。
一方で、沈めた野菜でやや味がぼやけた感がある。
ならば。
「よし、色々、足そう」
席に用意されたラーメンタレ=かえしを回しがけ。
それに飽き足らず、一味と、意外にも粗挽きではなく普通の白胡椒をだばっといく。
「そうそう、こういうのがいいんだよ」
醤油で全体の旨味が締まりを得て、一味と胡椒の方向性の違う刺激が更に味を立てる。
もう、こうなれば考える必要などない。
豚麺野菜スープ野菜麺スープ麺豚野菜……
いつの間にか絶好調になっていた腹の虫に導かれるまま、口に放り込み咀嚼して胃の腑に落としていく。
食の幸せを噛み締める。麺と共に。
「もう、終わりか……」
マシマシでないからには、終わりが早いのも道理。
始まりがあったからこそ迎えた充実の終わりであろう。
最後に、水を一杯飲み。
付け台に食器を上げ。
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、まだ時間はあるけど、ドームへ向かいますかね」
ここからはドームが見えている。迷いようはないだろう。
道なりに橋を渡るべく、北へと足を向けた。
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