第204話 神戸市中央区北長狭通の徳島風ラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉マシ

「三宮、か」


 楽しみにしてた予定をキャンセルして臨む、古巣のOBOG会の総会会場がそこだった。


 三宮といえば、やはり、あの店だ。


「そうだ、マシマシしよう」


 かくして私は、予定の前にマシマシすべく臨むのだった。


「う~む、時間は大丈夫だろうか」


 しかし、運命の悪戯か、電車の遅れで予定より着が遅れてしまった。


 並び具合によっては、総会に間に合わないかもしれない。


 が。


「いいや、行くと決めたら行くんだ」


 JR三宮駅の北側に出て西へ少々。商店街と高架を結ぶ裏道に目的の店はあった。


「6人、か」


 総会開始まで、40分ほどはある。これなら何とかなるだろう。


 さっさと列に入り、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動するものの、道中でAPは消費してしまっていたことに気づく。


 リリーと戯れられないのは残念だが、ここはラノベを読んで過ごそう。


 社畜とJKの恋物語を読んでしばし。


 着々と列は捌けて、順番がやってきた。


 狭い店内は、厨房を逆L字型に囲むカウンターのみ。案内されたカウンター席に荷物を置いて『ラーメン並』の食券を確保。


 座席に着いて、食券を出す。


「徳島、ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉マシ」


 整理するとそのような注文をサクッと済ませる。醤油・塩・徳島から味を選ぶのがこの店の特徴だ。


 あとは待つばかりなので、社畜とJKの物語を読み進めて時を過ごす。


 しばしの時が過ぎて、麺あげが始まったところで、そわそわと待てば、注文の品がやってきた。


「ふむ、綺麗な盛りだ」


 丼の上には、円錐状に盛られた魚粉塗れの野菜。頂点にはマシマシニンニク。麓には、厚切りチャーシューが並ぶ。


「いただきます」


 まずは、何をおいてもスープだ。


「うん、甘い」


 完全にすき焼きの割り下味。徳島ラーメンがすき焼きラーメンの異名を取る通りの味わいだ。糖分は脳の働きに不可欠。総会への活力だ。


 細モヤシの山を浸して甘辛味でいただくのも乙なもの。麺も言わずもがな。


「甘いは旨い」


 ということだ。


 太くて硬い麺がガッチリ甘辛味に染まって腹の虫を喜ばせてくれる。


 正に幸腹。


 肉塊ではなく、厚切りチャーシューという風情の豚もまた、このスープには合う。


 まぁ、すき焼き味なら、なんにでも合うだろう。


 米をぶち込みたい気分ではあるが、麺がある。


 モリモリと、麺喰らう。


 喉を通り、食道を抜けて腹に至る。


 至腹。


 徳島の息吹を感じ……はなしなけど、すき焼きの息吹は感じられる。


 ここでしか味わえない。噛み締めて楽しむ。


 そうすれば、丼の中身はハイペースで胃の腑へとテレポーテーションをしてしまう。(この味が)好きよといいだせないうちに私の胃袋(のスペース)奪ったマシマシ。


 気がつけば、ハイペースで丼の中から固形物が消えていた。


 こういうこともあるだろう、というか。


「総会の時間ががが」


 気がつけば、十分を切っていた。


 水を最後に一杯飲んで一息。


 食器を付け台に戻し、


「ごちそうさん」


 店を後にする。


 甘辛に満たされた腹を抱え、総会の会場へと足早に向かう。

 

 

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