第203話 大阪市中央区難波千日前の限定2

「唐突につけ麺が食いたくなってきたな」


 仕事も終わりが近い瞬間。空腹が増してくると、そういうときはあるだろう。


 無事に退社した私は、御堂筋線なんば駅へと降り立っていた。限定のつけ麺が今月から開始していた店を思い出したからだ。


「このタイミングで、数年ぶりに限定つけ麺が復活しているのは神の思し召しに違いない」


 かくして私は、南海方面の改札を出て東へ出て、道具屋筋にぶつかってから少し南下して、東、南へと。


 そこに、目的の店はあった。

 まだ開店前で十人足らずの列が出来ている。


「まぁ、これぐらいなら大丈夫だろう」


 列に入り、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在はウェディングイベントだが、リリーの花嫁姿実装はあるのか?


 そんなことを考えながら、ジャラスターモードのルベリスステージを周回している間に開店時間を迎えた。


 流れに乗って店内へ入り、食券機では迷わず限定の食券を確保。セルフのコップを手に座席について食券を出す。


「ニンニクいれますか?」


「いれてください」


 サクッと要件を伝えて、水を飲んで一息を付く。


 後は、ジャラスターモードを少し嗜むが、APブーストのお陰であっという間にAPがなくなってしまう。


 そこからは週刊少年チャンピオンを読んで過ごす。『魔法少女サイト』が大変なことになりつつ変態なオチで素晴らしい。最低最悪だけど最高の伏線回収だ。


 などと思っていると、注文の品がやってきた。


「うむ、ドロつけ麺だ」


 褐色のスープは、見るからにドロドロというか、脂が浮いている。だが、野菜がたっぷり入っているのでプラマイゼロだろう。


 麺の器には、デカい豚の肉塊と、ニンニク。そしてたっぷりの麺。


「いただきます」


 迷わず麺をつけ汁につけて食す。


「おお、ドロドロ旨い」


 つけ麺のスープは魚介豚骨のいかにもな味のものが主流だが、これは脂たっぷり濃厚豚骨醤油だ。ドギツイ味ではあるが、つけ麺としてはこれぐらいのインパクトがある方が嬉しい。


 モリモリと麺が進んでしまう。一緒に野菜も食べているからバランスはいいはずだ。


 頃合いを見て豚をいけば、


「むしろあっさり、か」


 豚はタレに使っていない素の状態で、そこにつけ汁を絡めるといい塩梅だ。箸休めといっても過言ではないかもしれない。


 そこに、麺に添えられていたニンニクをドバッと入れれば、ガツンとくる風味が足されてよきかな。


 太く堅い麺をモリモリ食べる喜びを、周辺の豚や野菜で賑わしつつ、しばし楽しむ。炭水化物、万歳。


 だが、時の流れは残酷だ。


「やはり、薄まってしまったか」


 たっぷりの野菜、濃い塩分。浸透圧でどんどん水分はスープに染みだし、どうしても薄まってしまうのは避けられない。


 それでも、脂のお陰で十分旨味はあるのだが、味変の頃合いだろう。


「まずは一味」


 ばっさばっさと表面を赤くなるまで掛ければ、ぽかぽかあったかカプサイシン風味のスープに早変わり。


「うん、唐辛子の味だな」


 辛味? なにそれ?


 再び炭水化物をキメて、一息吐けば、


「次は胡椒と……お、魚粉もあるな、入れちまえ」


 胡椒と魚粉を適当に入れてかき混ぜ、再び炭水化物をキメる。


「微かによくある魚介豚骨風味になってきたけど、それでもこの脂は別格だなぁ」


 これぐらいで個性が失われないところがドロつけ麺の矜持か。


 進化したつけ汁で、モリモリと麺と豚と野菜が進む。


 そうなれば、終わりは、近い。


 ラストの麺を余さずつけ汁に放り込み。


 名残を惜しむように食い切ってしまう。


「もう少し」


 レンゲでつけ汁を追い駆ける。思いの外具材が残っているので、ずるずると啜る。脂も大量に摂取している気がするが大丈夫だ問題ない。


 しかし、ここで戒めを思い出す。


 汝、完飲すべからず。


 そうだ、これを飲み干すのは、少々厳しい。


 あと一口、もう一口。


 最後に、一口。


 思わず伸びる手を止めてレンゲを置き。


 コップ一杯の水を呑んで気持ちをリセット。


「ごちそうさん」


 席を立ち、店を後にする。


「ふぅ、喰った、な」


 腹ごなしに歩くべく、オタロードを目指す。





 

 

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