第202話 大阪市阿倍野区阿倍野筋の半ちゃんらーめん

「おお、まだやっていたか……」


 ずっと気になっていた映画が普段行っている劇場で軒並み上映終了する中、天王寺のアポロシネマではまだ上映していることを見つけたのである。


「これは、行くしかないな」


 幸い、職場から天王寺は比較的交通の便が良い。


 そういう訳で、仕事を終えた私は、御堂筋線で天王寺駅へと降り立っていた。


「はて、アポロビルはどこだ?」


 そういえば、天王寺は自転車で来ることが多く、電車は環状線がメインで他は谷町線。以外に御堂筋線は利用しないので土地勘がないことに気づく。


「とりあえず、西改札を目指そう」


 地図を観ておいて正解だった。


 盲目的に西改札を目指し、


「次は ekimo か」


 道なりに進んでようやくアポロビルへの案内を見つけて一息。どうやら、迷わずに辿り着けそうだ。


 そのまま地下道が繋がっていて、アポロビルへはB2Fから侵入することとなった。


「さて、映画まであと30分弱あるわけだが……」


 腹の虫が一鳴き。


「腹が、減ったな」


 かくして、何かを喰ってから向かうことにする。


「お、ここは久しぶりだな」


 めぼしい店を探していると、難波で長らくあったが最近になって別の店に代わってしまったのと同じ店があった。


「よし、ここにしよう」


 時間も余りないのだ。気になったら即入店である。


 小綺麗な店舗は入って中央にカウンターがあり、その両側に四人掛けのテーブルが並ぶ造り。


 一人なので入ってすぐのカウンターに着き、お茶を持って来た店員に、


「半ちゃんらーめんを」


 と注文する。らーめんの種類を聞かれたが、ここは基本のとんこつ醤油にしておくことにした。


 お茶を飲んで一息吐いたところで、


「そういや、キムチがないな」


 難波の店舗では、食べ放題のキムチが各所に丼でおいてあったのだが、座席には見当たらない。


 が。


「あ、ここにあるのか」


 テーブル席の一角にコーナーが設けられて、アクリルか何かの透明なケースの中にキムチが山盛りになった丼があった。


 確かに、この方が衛生的か。


 早速、小皿にキムチを持って席へ持ち帰り、摘まみながらお茶を飲み、『ゴシックは魔法少女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 出撃する時間はないだろうから、おでかけだけでも、と思ったのだが。


「は、速い……」


 そこで、注文の品がやってきてしまった。いや、映画の時間もあるのでとてもありがたいことなのだが。


「おお、昔ながらって感じでいいねぇ」


 褐色のスープに、無造作に盛られたもやしと刻みネギと一枚のチャーシュー。見た目美しく丸く盛られた炒飯に、無造作に盛られて少々零れている紅生姜がいとおかし。


 そして、漂う豚骨の獣臭もまた、趣があってよい。


「いただきます」


 まずはスープを。


「うんうん、これだ」 


 久々だが、オーソドックスな豚骨醤油味が嬉しい。ドギツイ匂いはするが味はマイルドだ。


 続いて面は中太ストレート。博多豚骨のような細身ではなく食べ応えのある太さにこの豚骨醤油はよく馴染む。


 そして、炒飯に行けば。


「ん? あっさりだなぁ」


 小さく刻んだ玉葱人参と玉子のシンプルなものだが、味もとてもシンプルだ。だが。


「そうか、ここでスープだ」


 獣臭漂うスープに合わせると丁度いい。すごくパラパラな食感をスープでしんなりさせるのもまた楽しい。


「さらに、キムチか」


 投入するのはまだ速いので、スープの後にキムチ。うむ、口の中で三体合体成功だ。


 いい感じに三位一体を楽しみつつ、ふと席に置いてある調味料に目が行く。


「これ、いけるか?」


 あっさりめの炒飯に、ガーリックパウダーをまぶしてみる。


「いけるな」


 炒飯にガーリックは合わない訳がなかった。


 その味を加えてスープを啜り麺を喰らったりチャーシューを囓ったりキムチを食んだりする。


 食の幸せで腹の虫を満たしていく。


 そうして、半分以上麺がなくなり、勢い余って炒飯とキムチを食い尽くした頃。


「そろそろ、やるか」


 席を立ち、今一度キムチを確保する。


 そうして、席に戻り。


「こうだ」


 まずは、半分ほどを麺に投入して、混ぜる。


 キムチ豚骨醤油ラーメンに進化だ。


 一口喰えば、


「旨い」


 成功だ。


 だが、ここで手は止めない。


「さらに、こうだ」


 ガーリックパウダーを回しがける。


 ニンニクキムチ豚骨醤油ラーメンに進化だ。


 一口喰えば、


「旨い」


 成功だ。


 なんだか、滾ってきてしまいますぅ。


 ならば、後は楽しむのみ。


 残りのキムチも投入し、ガツガツと麺を喰らっていく。


 ほどなく、麺が尽きるが、


「麺がなければスープを飲めばいいじゃない!」


 レンゲを手に、ニンニクキムチ豚骨醤油スープを味わう。旨い。


「こういうのでいいんだよ、こういうので」


 飾らない昔ながらのラーメンが、染みる。


 そうして、レンゲで掬うのが面倒になったところで。


 丼を持ち上げ。


 残ったスープを一気に飲み干す。


「ふぅ」


 なんともいえない充実感にしばし呆け。


 お茶を一杯飲んで一息吐き。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にする。


「さて、劇場へ向かうか」


 まだ十分ほどある。同じ建物の劇場なら、余裕だ。


 賭け狂うべく、上りエスカレーターへと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る