第200話 大阪府吹田市寿町のラーメン小(全増し)

「今日はガッツリ行こう」


 どうにも疲れが溜まっている昨今。いきなり寝苦しくなって睡眠も浅くなりがちである。


 そんなときは、食で元気を補うのが筋だろう。


「どうせなら、行ったことのないところへ」


 そうして、仕事を終えた私は、空腹を抱えたまま阪急千里線に乗り込んでいた。


 向かうは阪急吹田駅である。


「久しぶりだなぁ……」


 ここには、学生時代からちょくちょく演奏会を聴きに行っていたホールがあるのだ。とはいえ、今日の目的地は逆方向。いつもとは違う側の改札を新鮮な気持ちで潜り、道なりに下新庄方面へ歩くこと数分。


 目的の店はあった。


「お、並んでない」


 開店直後の時間に着いたのがよかったのか、まだ若干席が空いていたのだ。


 厨房を縦棒が長いコの字にカウンターが囲む店内に入り、即座に券売機へ向かう。


「ここは無理せず、小だな」


 麺量300gで小。流石にプチの180gはなんだか負けた気がするのだ。


 かくして、セルフのおしぼり、レンゲ、箸、水を確保して席へと。


 後は待つばかりなので、少し店内を見回せば、


「増し増しは一気に増えるのか……」


 どうにも、量が解らない。周囲を観て考えるか。


 さて、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』だ。頭のおかしいケイブが戻ってきた感じの『閃乱カグラ』コラボは、シナリオはアンゼリカを絡めた感じで中々面白い。


 そんなことを考えながら、適度に出撃を重ねたところでAPを使い果たす。APブーストのお陰で大変効率良く稼げるのだ。


 それでもまだ時間が掛かるようだ。


 こちらも学生時代夢中になっていた本の電子版を読む。かつてドラゴンマガジンに連載していた『ソード・ワールドRPG』リプレイの第三弾。GMのミスで激安で生き返ったり、桁違いのお金ガメルを手に入れてしまった冒険者達、通称バブリーズの冒険譚だ。


 製作サイドの公式リプレイながら、色々とやらかしまくったりする人間味溢れる展開がとても魅力的で、TRPGの楽しさを思い出させてくれる。


 そうだ、TRPG、こんなに好きだったんだ。


 いつだって、好きを思い出したなら動けばいい。失うものもあるかもしれないけれど、長い目で見れば得るものの方が確実に多いのだから。


 己の好きを思い出し、GMやりたい欲が増し増しのところで。


「ニンニクどうしますか?」


 コールの時がやってきた。


 増し増しはヤバいらしい。量を確認しようにも、誰も頼んでおらず解らない。


 攻めるか、守るか……


「全増しで」


 守りに入った。令和初マシマシはまだ先の楽しみに取っておこう。


 ほどなくやってきた注文の品は、


「比較的穏やかだな」


 こんもりと盛られた野菜と脂。麓のニンニクと、大ぶりで解れた豚の肉塊がだらしなく横たわる。更に、野菜の上にはブヨブヨの脂が塗されてその上に一味が最初から振りかけられていてる。赤い彩りが目を楽しませてくれるな。


 褐色に濁るスープへの導線は、野菜の量が控えめなのだ最初からある。


「いただきます」


 レンゲを手に、まずはスープを。


「おお、これは旨いな」


 オイリーな豚骨醤油のガッツリした旨味が脳に叩き込まれる。


 野菜を少々喰ってから、早速麺を頬張れば。


「至福……」


 硬くて太い麺にしっかりスープが絡み、腹の虫を楽しませてくれる。


 豚もスープに浸して喰えば、いい塩梅。


 喰うにつれ、ニンニクが混ざっていってパンチを増していくのもいい。段階的に刺激に慣れながら喰えば、身体にも優しいはずだ(※医学的根拠はない)


 なんだろう? 野菜を崩す心配がなく、天地を返すまでもなく、自由に喰えるのが心地いい。段々ニンニクが勝ってきてジャンクになっていく味わいも面白い。


 野菜と麺が渾然一体となったところを箸ですくい上げてモリモリ食い、大ぶりの豚を食む。


 どうにも張り合いがないが、それでも腹の虫は喜んでいる。


「少し、変化を付けるか」


 ここで、卓上の胡椒と一味をたっぷり振りかける。このジャンクな味わいには、思い切らないと負けるのだ。


「うん、よい加減だった」


 唐辛子と胡椒の風味に、豚骨醤油と脂とニンニクと。


 全てが綯い交ぜになって舌を心を楽しませてくれる。


 生きているなぁ。


 食によって実感される、生。


 疲れはやはり、ガッツリ喰って治すに限る。


 カロリーは、体も心も癒やす万能薬だ。


 入展示は赤点滅していたゲージが、オールグリーンになっていくのを感じる。


「ああ、終わり、か」


 勢いよく喰ったのもあり、呆気なく丼の中には麺や野菜の切れ端や脂の残滓のみ。


 それでも、レンゲで少し追い駆けて名残を惜しまずには居られない。


 固形物を粗方掬い救い出して胃の腑に収め。


 最後に、水を一杯飲んで一息。


 食器を付け台に上げ、おしぼりを後ろの箱に放り込み。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


 思ったより少なかったが、それでもガッツリ喰った感はある。


「さて、帰るか」


 阪急の駅へと、真っ直ぐ足を向ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る