第199話 大阪市中央区難波千日前の限定2

「腹が、減ったな……」


 ストレートに、空腹だった。

 休み明けの憂鬱な月曜日。気分を晴らすには、やはり、ガッツリ喰うべきだろう。食は癒やしである。


 御堂筋線難波駅に降り立ち、南海側から出て道具屋筋に入って少し南下。


 そこから東へ抜けてすぐに右折したところに、目的の店があった。


 店頭に出ている看板を見れば。


「お、限定始まってるな」


 好きなやつが始まってるじゃないか。これは、直観に従ってよかった。


 開店直前で先客は5人。これなら、初期ロットに潜り込めそうで幸先もいい。


 列に入り『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイする。現在はイベントの谷間なので、放置していた学園篇を進めていく。


 そうだよなぁ、××の方だったんだよなぁ。


 リリーの出番はないけれど、これはこれでいいシナリオなのだ。


 キャラに感情移入しつつ、少々トリッキーなステージをこなしていると、店が開く。


 順番に食券を確保して厨房をコの字に囲むカウンター席の左奥の席から詰めて座っていくことになる。


 迷わず限定2の食券を確保した私は、丁度角席になり、水を飲んで一息。


 食券を出せば、ニンニクの有無だけを聞かれるので、


「入れてください」


 と応える。ここはマシはないのだ。


 あとは待つばかりなのでゴ魔乙の出撃でAPを使い切り、本日発売のジャンプを読んで待つことしばし。


 注文の品がやってきた。


「赤いねぇ」


 丼の上に山盛りになった野菜には、これでもかと一味が振り掛けられている。その上には、唐辛子味噌の玉。


 麓には刻みニンニクと一口大に刻まれた豚。スープは灰褐色のゴマダレ。大筋では坦々麺である。


「いただきます」


 まずは赤いマーブルを呈するスープを一口。


「う~ん、こってり」


 粘度が高いゴマダレに豚骨風味がガツンとくる。とてもワイルドで贅沢なスープである。


 早速、麺を引っ張り出して啜れば、やはり重くて旨い。


 一味が掛かった野菜も唐辛子の風味が利いていてよい。


 段々とニンニクが溶け込んでいって、スープの深みも増していく。


 だが、まだまだこれからだ。


 三分の一ほどを勢いで食したところで、


「そろそろ、溶かすか」


 満を持して、野菜の上に残していた唐辛子味噌の出番である。


 箸で崩し、レンゲでスープへ溶いていく。


 赤みが増していく。


「うん、ちゃんと辛いな」


 正直、たっぷりの一味は「唐辛子の味がする」というだけで辛味は余り感じなかったのだが、これはしっかり辛い。


 ようやく、本気を出してきた感じだな。


 改めて麺を啜れば、重さと辛さの二重奏がとても幸せな気分を運んできてくれる。ああ、食事はいい。どんなに絶望していても、食事をしているときだけは幸せを感じられる。


 坦々麺は、特に好きな麺でもある。ゴマダレ、最高。


 野菜も麺も一口大の豚も。


 全てを幸せに包み込んでくれるのだ。


 ならば、私は胃の腑から幸せになっていると言えよう。


 今年は行ってからここぞというところでずっとファンブルばかりの日々ながら、まぁ、それもまた人生と楽しんでいこう。


 そう、前向きになれる。


 カロリーは偉大だ。


 生きるエネルギーだ。


 感謝の気持ちを籠めて食せば、もう丼の中に固形物はほぼ残っていなかった。


 それでも、レンゲでスープを追い駆けて名残を最大限に楽しみ。


 水を飲み干して気持ちを切り替え。


 付け台に食器を戻し。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、腹ごなしに少し歩くか」


 東へ進路を取り、買い物すべく業務スーパーを目指す。

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