第197話 大阪市浪速区難波中の中味噌ラーメン(ヤサイマシマシニンニクマシカラメ)
平成が今日で終わるらしい。
「全然実感がないな」
どうにもここのところ四月からの環境変化やらでメンタルが微妙な感じなのもあって、新しい時代にそこまで興味はなかったりする。
だけど、食べなきゃいけないわけで。
「何か喰いに行くか……」
あてどなく家を出るも、店を選ぶ気力も微妙である。
近所の店は閉まっていて、それならばと電車に乗り込み、日本橋へ。
「どうせながら、ガッツリいくか」
そういう店を回ってみるが、
「そうか、今日火曜日か」
二軒は定休日だった。
となると……
「あそこの味噌はまだだったな」
新しくできた店の存在を思い出し、そこへ向かうことにする。
「すぐ入れそうだな」
前に集団がいたが、奥のテーブル席へ案内され、カウンター席には空きがあった。
「さて、味噌だな」
前回は醤油だったので、今回は味噌だ。
席に着き、食券を出せば。
「マシますか?」
とストレートに聞かれたので、
「ヤサイマシマシニンニクマシカラメで」
詠唱で応える。ここのニンニクは辛いので、マシマシだとキツイことを学習してのマシである。試行錯誤で学ぶのである。
さて、後は待つばかりなので『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
「最近、プレイができてないんだよなぁ」
どうにも気分が乗らずに出撃回数が減っている。ログインボーナスも何回か逃した気がする。
それでも、辞める気はない。リリーは育てたいのだ。
まずは、一杯になっていて出撃出来ないので使い魔の整理を行う。名前で絞り込めるようになったお陰で、既に持っているかいないかの判断がし易くなったのが有り難い。
地道に運強化に使えるものはリリーの運強化に費やして、使い魔枠に空きを造り、おでかけを仕込んでいると、思いのほか時間が経っていたようだ。
「味噌ヤサイマシマシニンニクマシカラメです」
注文の品がやってきた。
「中々しっかりした盛りだねぇ」
山盛りの野菜の頂上には、ノーマル量のアブラ。麓には、大きめの豚が二枚と山盛りのニンニク。やはり、マシでもしっかりした量だ。
「いただきます」
こぼれそうな野菜を注意しながら口を運べば、ほどよくアブラが絡んでいて翻って野菜の甘みが感じられる。
そのまま、しばらくは動線確保のための慎重を要する箸使いを要求されるが、何、もう何度喰ったか解らないマシマシだ。順調に山を崩していく。
なんというか、アブラがいい感じに旨味を提供してくれるので、食が進むのがありがたい。
「でも、こちらもいってみるか」
大ぶりの豚に齧り付く。
「すごく、豚だ」
しっかりと豚の旨みが凝縮されていて、食べ応えが半端ない。これだけでいい摘まみになるだろう。
豚味で変化を付け、更に野菜を食い進めたところで、そろそろ、メインの出番だ。
スープの中に箸をツッコンで、麺を引っ張り出す。
「おお、豚骨味噌……」
スープまで達するまでは余り感じなかったが、麺を啜ればはっきりと豚骨味噌の風味がする。濃厚で旨い。
ニンニクを溶かし、豚を沈め、野菜を沈め、麺を引っ張り出す。
こうして天地を返せば、後は欲望の赴くまま貪ればよいのだ。
そこでレンゲでスープを改めて飲む。ニンニクが溶け込んで、旨さがマシている。
ベースを理解したところで、豚を囓ればスープを吸って味噌風味が加わったのがまたよし。
野菜もスープに浸してモリモリいける。
同じぐらい、麺もモリモリいける。
ああ、喰っている。
生きては、いるな。
最低限の生は感じられる。
今は、それでいい。
生命の在り方に思いを馳せながら箸とレンゲを走らせれば、丼の中身は粛々とその量を減らしていく。
時に、一味を。
時に、胡椒を。
アクセントが更に消費を加速させ。
やがて。
「終わり、か」
スープの中には野菜の残骸と脂が浮くばかり。
少しスープを呑んで名残を惜しみ。
最後に、水を一杯飲んで一息。
「ごちそうさん」
店を後にする。
「平成最後の食事、か」
少々ネガティブな気分ではあるが、
「平成最後の夜。令和になる前から色々つれいわ……ぷっ、くくく」
リリーのようなことを呟いてひっくり返し、平成最後の夜を行く。
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