第187話 大阪市中央区日本橋のラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉カラメ)

 大事な予定が週末に控えている。


 そこへ向けて体調を整えるために必要なもの。


「ああ、カロリーが欲しい……」


 そうだ。カロリーだ。


 どうにも、ここのところあまりしっかり摂取できていない気がするので、ここらでガッツリ言っておくべきだろう。


 ならば、あそこか。


 仕事帰りに難波に降り立ち、御堂筋線から南海方面に出て道具屋筋方面へ。


 そのまま東へ抜けて、堺筋の手前で南へ折れれば、目的の店がある。


「お、並んでないな」


 タイミング的に開店からしばらくの間があったので微妙だと思っていたが、幸い列がない。


 早速入って券売機で食券をと思ったが。


「故障中、か」


 ほどなく店員がやってきて、用意されていた手書きメニューを見て考える。


 なんだか新鮮だが、だからこそここは、基本に忠実に。


「ラーメンを」


 基本を頼むことにした。


「麺の量はどうしますか?」


 ここは中……と思ったが、ここしばらくのことを考えれば、危険かもしれない。


「並で」


「ニンニク入れますか?」


「ニンニクマシマシ。ヤサイマシマシ魚粉カラメで」


 流れるように詠唱も済ませて、奥の空いている席へと着く。


「ああ、メンテ中か」


 早速、『ゴシックは魔法乙女! さっさと契約しなさい!』を起動しようとしたが、メンテ中だったので断念。


 週刊少年チャンピオンを読んで待つことしばし。


 注文の品がやってきた。


「おお、いい感じだ」


 うずたかく山となった野菜は、灰色の魚粉に塗れている。


 麓に並ぶ肉塊に、大量の刻みニンニク。


 見るからに健康的だ。


「いただきます」


 レンゲで崩れないように抑えながら、少しずつ野菜を喰う。


「魚粉味、いいなぁ」


 魚介系の和の味わいで食すもやしとキャベツも乙なものだ。


「しかし、今日はひときわ厳しいな……」


 際々に大量に盛られたニンニクが、油断するとすぐに崩れてしまうのだ。少々、こぼれてしまったのが惜しい。


 それでも、丁寧に丁寧に、野菜を崩していく。


 マシマシを喰うときは、謙虚に焦らず臨むのが吉だ。


 慎重にヤサイの山を崩してしばし。


 ようやく、麺が見えてきた。


「まだだ、焦るな」


 思わず引っ張り出しそうになったが、例のニンニクが厳しい状態になっていた。


「ここは、そぉっと沈めて……」


 麺へ繋がる導線部分にニンニクを少しずつ沈めて馴染ませていく。


 ついでに、肉塊も沈めて麓の憂いを断ったところで。


「よし、今だ」


 麺をスープから引っ張り出す。


 顔を出した太くて堅い黄色い麺を、そのまま頬張る。


「あああ、炭水化物、カロリー……」


 幸せの味だ。


 だが、勿論これはまだまだ始まりだ。


 ヤサイを沈めて麺を引っ張り上げ、天地を返してしまう。


 こうすれば、零れる心配が大幅に軽減されるのである。


「さぁ、カロリーだ、カロリーを取るのだ」


 食が加速する。


 麺を頬張り、ヤサイを食み、スープに浸して程よく味が染みこんだ肉塊を囓る。


 ああ、生きている。


 生きていける。


 生きよう。


 心に希望が湧いてくる。


 全てはカロリーのお陰だ。


「ときには、刺激も必要だ」


 一味と胡椒をドバッと振り掛ける。


 人生のアクセントが加わる。


 辛いことも時が経てば人生を彩るアクセントに変わるのだ。


 甘い思いが、時を経て重たく心を押しつぶすこともあるように。


 脳の働きがよくなったのか、悪くなったのか。


 なんだかそれっぽいことを考えながら、要するにジャンクさをました麺ヤサイ豚を楽しむ。ニンニクの刺激は、最初からあったので対象外だ。


 食の悦びを満喫していれば、丼の中身の減りは早い。


 あっという間に、スープが残る飲みとなった。


 魚粉と、ニンニクと、一味と、胡椒とでジャリジャリのスープを名残を惜しんでレンゲで頂いて余韻に浸る。


 最後に、水を一杯飲んで気持ちを切り替え。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にした。


「さて、腹ごなしに少し歩くか」


 オタロードへと、足を向ける。

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