第186話 兵庫県西宮市津門稲荷町のラーメン(小)ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメ
「せっかくの西宮だしなぁ」
三連休の中日。私は所用で西宮北口に出てきていた。
午前中からの用事を終えると、丁度昼時。
「そうだ、あの店に行って見ようか」
かくして私は南へと進路を取る。
阪急で一駅程度の距離を南下すると、JRの路線にぶつかり、その先には国道二号線が走っている。
その沿線に、目的の店はあった。
青いテントに特徴的な字体で特徴的な屋号が記された店舗だ。
「結構並んでいるな……」
この手の店では常であるからには、並ぶしかあるまい。
店頭に色々と注意が書いてあるが並ぶ前に食券を購入するシステムのようだ。
基本のラーメンの食券を購入しつつも、用意されていた洗濯挟みを装着する。ノーマルが 300g だが、ここのところ心身が弱っているので『小』を示す洗濯挟みを用いて 200g に減量するのである。
「寒いな」
比較的温かい冬だと思っていたが、列に入ると風の冷たさが身に染みた。この連休は冷え込むという予報だったが、その通りのようだな。
更に、昼時からそれなりに時間が経過したこともあり、腹の虫も主張をしだしている。
だが、大丈夫。そういうのを補って余りある麺をこれから喰うのだから。
店員のテキパキとした誘導に導かれ、列は順調にはけ、やがて自分の番がやってきた。
小さなカウンターのみの店内に順に入り、提示された席に座る。
前のロットが出たところなのでこれからの調理だが、寒い外で待つよりはずっといいだろう。
『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を少しプレイしながら、そわそわと待てば、ついに自分の番が回ってきた。
「ニンニク入れますか?」
「あり。ニンニクマシマシヤサイマシマシカラメで」
座席に張り出された手順に従い、ニンニクの有無、マシの順にコールすれば手際よくトッピングがほどこされ、注文の品がやってきた。
「中々ワイルドだな」
荒々しく山積みされたヤサイの山の頂上には、適量の油。麓には、大ぶりのチャーシューというか肉塊と、刻みニンニク。
一切の麺が姿を見せないワイルドさ。
「いただきます」
慎重にヤサイを崩すところから。脂が絡んで旨みが強く、モリモリ食べられるのが救いか。
ジェンガのように、崩れない範囲で麓を痩せさせるように食べ進み、麺への導線を徐々に確保。
スープが見えてきたところで、レンゲで一口。
「あ、思ったより食べやすい」
ドギツサのない、比較的まろやかな味わいだった。
続いて、まろやかなスープに少しずつヤサイを倒し込むようにして麺を引き出していく。
慎重に、慎重に進めれば、ようやく麺が顔を出す。
太くて硬い麺を啜れば、食べ応えとスープの旨味がガッツリと胃の腑へと落ちて腹の虫を喜ばせる。
適度に味わえば、後はヤサイを沈めて麺を上に天地を返す。
ヤサイが炭水化物と入れ替わり、新たな顔を見せる。
ここまでくれば勢いだ。
心の赴くままに麺を喰らい、ヤサイを頬張り、豚に齧り付く。
濃厚まろやかな中にニンニクがガッツンガッツンくるスープの味わいが、何を食べても美味しく感じさせてくれる。
「癒やされる……」
カロリーは心身を癒やす特効薬でもあろう。
ここで、更なるパンチを加えよう。
座席におかれた大きな容器を丼の上で振り回せば、赤い粉が一面に降りかかる。
「やはり、一味だな」
ピリリとした味わいが追加され、ひと味変わる一味だけに。
それはさておき、段々と丼の中は寂しくなっていく。
ここしばらくの食欲不振が嘘のように、胃に吸い込まれていく。
「ああ、生きているなぁ」
そんなことをさえ、思ってしまう。
とはいえ、始まりがあれば終わりがあるのも必然。
「もう、ここまで来てしまったか……」
細々としたヤサイと麺と豚の切れ端だけが、丼の底に沈むだけの状況。
レンゲで追い駆けてチマチマと食べつつ。
それも、掬い上げられるものがなくなってきた。
「ここまで、か」
スープをレンゲで一口。
そうして、水を一杯飲んで区切りを付ける。
丼とコップを付け台に戻し、
「ごちそうさん」
店を後にした。
「さて、ここからならJR西宮の方が近いな」
駅へと向かい、歩みを進める。
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