第185話 大阪市中央区難波千日前の賄い味噌
「疲れが溜まっているなぁ……」
ここのところ、諸事情により心身共に多大なるダメージが蓄積されていたのである。
そのせいか極端に食が細くなり体重が減ったのはいいが、これは『痩せた』ではなく『やつれた』だろうな。
そのような状況で、遂に仕事の進捗が微妙な感じになるところまできてしまっていた。ここまでくると、何か対策を練らねばなるまい。
何が足りないのか?
睡眠はそこそこ取ったはずだ。
なのに、こんなに頭の働きが鈍いのは……
「そうか、飯、か」
ならば、いかねばなるまい。
かくして、仕事帰り。私は御堂筋線なんば駅に降り立ち、道具屋筋から一つ東の筋を進めば、すぐに目的の店が見えてきた。
開店直前の店前には、先客が数名。これなら、最初のロットにありつけるだろう。
列に並んで『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、リリーのイベントなので頑張らねばならないのだが、どうにも気力が出ない。それでも、おでかけを仕込んで出撃を数回こなしたところで、開店となった。
厨房の三方を囲むカウンターのみの店内へ足を踏み入れ、入り口左の券売機へと。
「何にしたモノか?」
期間限定もいいし、基本のものもいい。
少し迷ったところで、
「いや、ここは味噌にしておこう」
かくして食券とセルフのコップを確保して席へと着く。
すぐに食券を出してニンニク入りを告げる。ここは、マシはないので注意が必要だ。
水を一杯飲んで一息吐きつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を進めて、ほどよいところでジャンプを読んだりして悠々と過ごしていると、注文の品がやってきた。
「ほぉ……混ざっていないのか」
大ぶりの丼には、コーンが乗った野菜の山と大ぶりのチャーシュー。その周囲を浸すのは白濁した脂分の多いスープ。
味噌ダレは、底にあるようだ。
「なら、いきなり混ぜるか」
レンゲと箸でスープの中から麺を引き出してくるが、久々に元気な腹の虫に導かれていきなり一口麺を啜る。
「おお、味噌味」
やや平めの太麺は、タレを纏って味噌味だった。ベースのスープが塩気が強い上にニンニクも入っているので、かなりパンチの効いた味噌風味。旨い。
「捗る捗る」
気がつけば、混ぜつつどんどん麺が腹に収まっていく。次第に、ずっとざわつき気味だった心も落ち着いてくる。
「カロリーは正義だ」
そう、足りなかったのはカロリーだ。熱量だ。
そりゃ、カロリーが不足したら何事にも熱意が出る訳がない。
心身共に癒やされる圧倒的カロリー。
「更に、燃やしていこう」
一味を表面が真っ赤になるぐらいにふりかけ、食せば熱が増す。
これで抱きしめた心の小宇宙のごとく脂肪を燃焼させて、エネルギーを得るのだ。
カロリーは溜め込まず使うのだ。
いつしか、心身共にリラックスしていた。
全ては、カロリー様のお陰だ。
いつしか、固形物は見えなくなったが、まだ、そこにはありそうだ。
塩辛い味噌スープを飲んでは水で薄め、スープの中を追い駆けて、掬い上がった麺の切れ端やら野菜やら脂味やらコーンやらを楽しむ。
「ふぅ、これで終わりか」
さすがに、これ以上は塩分過多だろう。
最後に、水を一杯飲んで丼を付け台に戻し、
「ごちそうさん」
店を後にする。
「さて、カロリーを使うか」
上向いた気分で、オタロード方面へと足を向ける。
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