第184話 大阪市東成区深江南のしあわせらぁ麺+高菜ごはん
「冷えるな……」
そういえば、寒気が入り込んでいるらしい。
こういう寒い日は、温まるものを喰いたいものだ。
あいにく、今、家には大した食材がない。
「何か喰いに行くか」
温まるものを喰うために寒い街に繰り出すという矛盾に家を出た瞬間気づいたが、まぁ、それはそれだ。
訪れたのは新深江駅。文房具の大手の本社が直結している駅だ。
そのまま、千日前通りを北上し、大きな通りにぶつかったところで左折。
すると、いくつかの麺屋が存在する。
寒いときは、やはり、温かい麺だろう。
魚介系の店も気になるが、今はもう少しガッツリ行きたい。辛麺もあるが、今はそういう気分ではない。
なら。
「ここ、か」
年期の入った民家のような佇まいの店舗の前に立つ。
何度か店が変わって居るのだが、メニューは似たようなものという不思議な店である。
丁度開店したところのようで、すぐに入ることができた。
「さて、何を喰ったものか」
豚骨醤油、昔ながらの中華そば、味噌、つけ麺とそこそこのバラエティがある。
ここは、ほっこりする意味でも、
「しあわせらぁ麺、大盛で」
しあわせ=豚骨醤油を選ぶ。麺大盛りはサービスなので当然お願いする。
更に、
「高菜ごはんも」
ごはんも頼んでしまうのだ。
炭水化物×炭水化物が、しあわせの増強に効果があるのは経験上よく知っているからな。
後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今は、怪獣娘コラボだが、出撃する時間があるか微妙だ。
おでかけを仕込んでカレンの探索マップを進めていると、注文の品がやってきた。
「開運、か」
刻みネギ、炙りチャーシュー、半熟に玉子が白濁し背脂の浮くスープの上に乗っかっている。そして、やや背の高めの丼のヘリに『開運』と書かれた海苔がそえられていたのだ。
高菜ごはんの方は、丼飯に豪快に高菜が乗せられており、想像以上にボリュームがあった。
「いただきます」
まずは、レンゲでスープを啜り暖を取る。
「ああ、豚骨醤油……」
とても解り易い味だった。安心できる豚骨醤油。見た目の割には、獣臭くはない。
そこで口内に高菜ごはんをぶち込めば、ピリ辛と米が豚骨醤油に溶け込んでしあわせを感じる。
「おっと、麺を喰わないとな」
先に米を食ってしまったが、気を取り直して麺を啜る。
中細麺は、しっかりとスープをはらんでスルスルと口内にしあわせを運んでくれる。
徐に炙りチャーシューへと手を伸ばせばほろほろと崩れつつも、タレが煮詰まったお焦げがとても香ばしくしあわせを感じられる。
味玉も、とろりとした黄身の風味が、しあわせだ。
高菜ごはんを適宜挟んで変化を付けつつ、しあわせを堪能していく。
「さて、惜しまずにいくか」
半分ぐらい喰ったところで、開運海苔をスープに浸して食す。
スープの塩っぱさを纏った海苔は、あっという間に胃の腑へと消えていく。
「運を開いてくれればよいな」
微かに口内に残る海苔の余韻に、食のしあわせの先に幸運を願う。
こうして、一頻り楽しんだら、味変の時間だ。
「これいかないとなぁ」
席の壺に入っているのは、揚げにんにく。
自家製のようで、カリッという食感ではなく少々オイリーで柔いのがまた趣深い。
それを、たっぷりとスープに放り込み。
レンゲでスープを啜れば。
「カロリーの味がする……」
油とニンニクのコラボレーション。カロリーの味はしあわせ味だ。
豚骨醤油に力強さが加わって、なんともいえない多幸感が脳に上がってくる。
しあわせだ。
高菜ごはんをガツガツいき。
らぁ麺をずるずる具材をむしゃむしゃいく。
しあわせだ。
しあわせ、だった。
気がつけば、高菜ごはんは空になり、麺の丼の中にスープを残すのみとなっていた。
「しあわせは、最後まで責任を持って味わわねばならぬ」
義務感に駆られ、丼を持ち上げて直接スープを口へと流し込む。
こってりした豚骨醤油と、ニンニクの味わいが口内を満たし。
胃の腑へと沈んでいった。
全て、食した。
最後に、水を一杯飲み。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にする。
「ちょっと喰いすぎたか」
立ち上がると少々お腹が重い。
「腹ごなしに、歩くとしよう」
あてどなく足を動かす。
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