第175話 大阪市浪速区日本橋のトマトラーメン(野菜マシマシニンニクマシマシ)

 今日は、楽しみにしていたゲームの発売日だ。

 仕事をこなし、日本橋のソフマップなんば店ザウルスへと赴く。

 住所的には日本橋だがなんば店なのは気にしてはいけない。


 家庭用ゲーム機に親しんで育ちつつ、世代も合うはずなのに、ファミコンの次にスーパーファミコンに行かずにセガマスターシステム→PCエンジンと任天堂ハードを迂回する人生を送ってきたことで触れる機会のなかったゲームだ。


 そんな訳で、二店舗が一店舗に集約されて5Fになったゲーム売り場にて、少々の行列に並びつつ無事に『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』を確保したのだった。


 正直、あえて情報を遮断してきたのでどんなゲームかさえ解っていないが、きっと楽しめることであろう。


 目的を果たして店を出たところで。


「腹が、減ったな……」


 ならば、喰えばよい。


 これから、まだ新刊を確保しにメロンブックスへ向かう用事がある。


 その途上で考えればよいかとオタロードを南下していく途上、くしゃみが一つ。


 そういえば、ここのところ気温が乱高下して体調が微妙だな。


 こういうときは、免疫力を高め、細菌やウィルスに耐性のつくものを食べるに限る。


 そうなると、もう、行く場所は決まっていた。


 オタロードを東に折れてすぐ。


 小さくも中々に自己主張の強い店へと向かう。


「牛とかやるのか……」


 何気にメニュー豊富なのだが、また新メニューの広告がある。この手のは豚がメインなところで牛肉マシとか、興味はあるが、牛肉はそこまで得意ではないので控えよう。というか、食券が×になってるか。


 新メニューへ飛びつくのをやめて、何にしたものか考えるが、


「そうだ、赤くなると医者が青くなるといわれる野菜を使ったものがあるじゃないか」


 かくして、トマトラーメンの食券を購入して店内へと。


 タイミングよく客が全てはけたところだったので、無人の店内の最奥に陣取り。


「ヤサイマシマシ、ニンニクマシマシで」


 とサクッとオーダーを済ませてしまう。


 後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する訳だが、イベント初日で何かとルールを確認したりして手間取っているうちに、目の前の厨房では麺ができあがろうとしていた。


 出撃は諦め、ほどなく付け台に出てきた丼をカウンターへと。


「これで風邪対策はばっちりだな」


 山盛りのヤサイの頂点には通常量なのにたっぷりのアブラ。麓の一角にこんもり盛られた刻みニンニクに、大ぶりの角切りチャーシュー2枚。更に、ヤサイの受けに刻みネギが掛かっているのがポイントが高い。ネギも風邪にはいいからな。


 更に、スープは赤いトマト色。


 ここまでくれば、これは完全に健康食品だな。


「いただきます」


 何からいくかだが、ここは丼が大きいお陰で導線が辛うじて存在するスープへと。


「おお、なんだか伊太利亜だ……」


 ニンニクとトマトの風味って、そんな感じだよね?


 酸味とガッツリした薫りのコラボレーション。ベースは共通の豚骨出汁と、思われるが、他のメニューと趣が全く異なるのがいい。


 第五部のアニメがやっているし、タイムリーな味わいだ。


「このスープで食うとモヤシもまた新鮮な味わいになるなぁ」


 いくらでも食えそうだな、これ。


 そうして、山を崩して麺への導線を確保したところで、天地を返すようにまぜ合わせながら食していく。


 マシマシでトマト味は色々ズルい。伊太利亜の息吹を感じつつ、食えば食うほど健康になりそうだ。トニオの店で出てきてもおかしくない逸品である。って、トニオは四部か。


 まぁ、いい。


 ほろほろ崩れる豚の旨みに、ときおり感じるネギの刺激。ガッツリ来るニンニク

とアブラの味わいと調和するトマト味。全てを統べて噛み締めれば多幸感しかない麺。


 食の幸せを存分に感じるだけでも、健康になれるだろう。


 箸とレンゲを止めず、腹の虫を喜ばせ続けていれば丼の中身が消えていくのは道理。


「もう、か」


 健康的すぎて勢いが付いてしまったな。


 いかんいかん。


 早食いはあまりよくないか。


 とはいえ、既に後の祭り。


 絶妙なトマトスープが残る丼にレンゲを通して口へと運ぶ作業を続ける他ない。


……これに、ご飯とか入れたら極上のトマトリゾットじゃね?


 悪魔の囁き。


 〆のご飯は付いているのだ。


 だが。


「今はやめておこう」


 危うく完飲しそうだったが、レンゲを止めて自制。


 そうだ。


 満腹感が遅れてくるんだ……


 という訳で、水を一杯飲んで一息入れ、


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻して店を後にする。


「ぐぬぬ……なんだか原因不明だが胸の辺りにモヤモヤしたものが……」


 まぁ、いい。


 要するに、腹が一杯なんだ。


 歩けば、直る。


「久々に恵美須町辺りまで足を伸ばすか」


 そう、思い立ちつつ、オタロードを南下、メロンブックスへと。

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