第172話 大阪市浪速区日本橋のマゼニボ
「行ってしまうか……」
ここしばらく、やることが多くこれから月末に書けては修羅場モードに入って行く。その状態で、絶対観たい映画が三本もあり、悩ましい。
その悩みを少しは減らすべく、思い切って仕事帰りに一本を観ることに決めたのだ。
上映までは余裕がある、今の内に食事も済ませてしまうのが吉だろう。
「さて、どこで喰うかだが……」
フラフラとオタロードに入り込み、南下。
メロンブックスの手前。
「ああ、そうだな、久々にここへ行ってみるか」
非常に狭い敷地内に凸型にカウンター。奥が小さな厨房となった店舗。ドアはなくビニールの幕があるだけで、屋台のような趣だ。
すぐいけそうだったので、さっそく店頭の券売機へ。
今月の限定で海老のまぜそばがあるが、あいにく海老な気分ではない。気分でないときは剥くのが面倒になるので、ここは避けるが吉。
「なら、基本に行くか」
かくして、看板メニューの食券を確保してカウンターの最奥へ。
ここは基本立ち食いだったのだが、左右の奥に一席だけ、カウンターチェアがあった。座って喰えるなら、それに越したことはないのだ。
席に着いて食券を出せば、麺の量を尋ねられる。並、大盛、特盛まであるようだが、
「大盛で」
空腹だったが真ん中に留めておく。これは戦略的な狙いがあってのことだ。
注文を通したところで、映画のチケットを確保し、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
今日から、戦艦のシューティングゲームとのコラボが始まっている。あっちのゲームには手が回らず放置状態になっていたなぁ。なら、こっちのイベントぐらいはこなすとするか。
と思っていたところで、注文の品がやってきたので終了する。
「個性的な見た目だなぁ」
丼の半分に及ぶ、豚ロースのほぼハムなレアチャーシュー。刻み玉葱、タレに浸った背脂と刻みネギ、そして、中央には大盛の煮干し魚粉。
基本は煮干しまぜそばだが、見た目から尖っているのがいい。
「いただきます」
箸を手に、混ぜたくる。
タレで褐色に全体が染まりつつ、全てが渾然一体となっていく。
一頻り混ぜたところで太麺を啜る。
「ああ、なんというか、豪華な猫まんまって感じだな」
煮干しと醤油ダレで和風の出汁が効いたところに、背脂の獣風味が主張してくる。そこに、ネギと玉葱の薬味の味まで勝負に出てきて、まぜそばであるからこその渾沌とした味わい。
ジャンキーな見た目でジャンキーな味わいで、問答無用で旨い。
そして、そのタレに絡んだチャーシューを食えば。
「もう、これだけでメインのおかずになるなぁ」
味わいは厚切りハムステーキ。ほどよく締まってしっとりした歯触りの、むしろ上品な味わいがこの渾沌の中にあるのが面白い。
そうして、半分ほど喰ったところで、更なる渾沌を呼び込むことにする。
「これが合わない訳はないよなぁ」
卓上のおろしにんにくを、匙でドバッと入れてグジャっと混ぜる。
再び麺を啜れば。
「ああ、もう、何が何だか解らないが旨い」
ニンニクのパンチが加わっても、それに負けずに受け止めきる渾沌とした味わいが舌を楽しませてくれる。
脳にビリビリくる味だ。
箸休めにチャーシューを食みつつ、渾沌を味わっていけば。
ペロリと麺を平らげてしまうまで、そう時間は掛からなかった。
タレと具材をある程度残しつつ、麺だけがほぼ尽きた丼が目の前にある。
だが、これで終わりじゃない。
「〆のご飯、お願いします」
そう、〆の追い飯がサービスなのだ。
しかも、量は小、中、大と三段階に選べる。
これがあるから、麺は大盛りで十分なのである。
今回は、ご飯も中で頼めば、茶碗に丁度一膳分ぐらいで出てきた。
迷わず、丼に全てぶち込み、レンゲでグッチャグッチャとまぜ合わせる。
茶色く染まり、所々に残ったネギやらが混ざり込んで余り品のいい見た目ではない。
だが、
「旨い」
のである。
魚介と醤油をベースとした味が米に合わない訳がないのだ。
だが、少々米が多めで味が薄まっている気がしないでもない。
「なら、足せばいい」
刻みニンニクを追加。
「よし、いい感じに臭くなった。臭いは旨いだ」
脳へと這いよる渾沌がヤバイ薬のように快楽を呼び起こす。
炭水化物を存分に味わい尽くし、悦楽に浸れば。
丼は空になり、腹と心は満たされていた。
しばし余韻に浸り。
水を一杯飲んで渾沌を払い。
「ごちそうさん」
付け台に食器を戻して店を後にした。
「まだ少し時間があるな……買い物してから行くか」
オタロードを更に南へ。目指すはアニメイトビル。
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