第171話 神戸市中央区多聞通のBラーメン+高菜ごはん

 神戸で正午から用事が入っていた。


 時間的に、早めに神戸入りして飯を食ってしまうのがいいだろう。


 かくして、一時間前に神戸入りした私は、JR神戸駅付近をぶらりと歩き、店を探していた。


「ん? 神戸らーめん?」


 線路沿いに東へ向けて歩いていると、そんな看板が見えてきた。


 神戸のらーめんというのは、ストレートでいいじゃないか。


 店名から、どうやら京都の某店から独立した系統のようだ。


 なるほど。


 いいかもしれない。


 幸い、早い時間で店も空いている。今ならサクッと入れそうだ。


 店内は、入って右手にテーブル席。


 左側が厨房になっていて、その前をカウンターが囲っている形だ。


 手近なカウンター席に着き、メニューを物色。


「Aラーメン、Bラーメン、Cラーメン?」


 なんともシンプルなメニューだ。味噌と塩、トマトなんかもあるが、メインはこれのようだ。


 初見の店は、基本に忠実にいくスタイル。


 メニュー記載の内容から、Aがネギ・モヤシ・メンマの超オーソドックスタイプ。Bラーメンがチャーシューメン、Cラーメンがチャーシューメン大、のようだな。


 チャーシュー無しは寂しいので、ここはBに行くか。


 と思っていると、他にもメニューがあることに気付く。


「ランチセット! そういうのもあるのか」


 高菜ごはん、ライス、半チャーハンとセットにできるようだ。


 ここは、高菜ごはんかな?


 というわけで、


「Bラーメンと高菜ごはんのセットを」


 注文を済ませる。


 おもむろに『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は宝探し系のイベント開催中。レースということでレースクイーン姿の乙女達の姿が登場しているのだが、レースクイーンリリーがいつ登場するのかが気になるところ。とはいえ、どうも厨房の様子を観ているとすぐに出てきそうな雰囲気。おでかけだけ仕込むとするか。


 そうして、予想通りすぐに注文の品はやってきた。


「豪快、だなぁ」


 丼の表面をはみ出さんばかりに覆うチャーシュー。


 その上に刻みネギがバサッと掛かり、メンマとモヤシを隠している。


 無骨さが、なんとも食欲をそそるではないか。


「いただきます」


 ここはあえて、麺からだろう。


 チャーシューの下から引っ張り出して啜れば、


「ガツンと来るなぁ」


 獣臭強めの豚骨醤油。味もまた、無骨。だが、それがいい。


 細ストレート麺にしっかりと乗っかってきて、細さを感じさせない太い味わいだ。


 同じ系統の店はときおり利用するが、そこよりずっとワイルド。


 こうなれば、肉食だ。


 チャーシューを囓れば。


「うぉ、しょっからい」


 塩気が効いたチャーシューは、単品で十分摘まみになるレベルの味付けだった。それが、ゴリゴリの豚骨醤油味とコラボを繰り広げると、濃い。


 ここだ。ここで、出番だ。


 セットの高菜ご飯を食う。


「ああ、癒やされる」


 ピリ辛高菜の素朴な味わいが、塩気を中和してくれる。チャーハンにしなくて正解だった。バランスがとてもよい。


 まぁ、素直に白飯でもよかった気がしないでもないが。それはともかく。


 濃い麺を喰らい、高菜ごはんに癒やされる心地良い連環を楽しんでいるが、そろそろ何かひと味足したくなってくる。


 卓上には、かえしらしきものがあるが、待て。それはない。


 他にはすりおろしニンニク。とても魅力的だが、今日はこの後で息を吐く機会が多いので少し躊躇する。


 たくあん。


 いや、高菜で十分だ。


 そして、ようやく見つけた。


「フライドガーリック……か。いいものがあるじゃないか」


 正確には、フライドガーリックを漬け込んだガーリックオイルである。


 とはいえ、ざくざくフライドガーリックが入っているのは事実。


 スプーンにすくって麺に放り込んで味見。


「この選択は正しかった」


 香ばしい旨味とニンニクの薫り。それが、この濃い味に合わない訳がないのだ。


 ああ、幸せだ。


 血圧だの体重だのは忘れて、ただただ旨い飯に舌鼓を打つ時間が人間には必要なのだ。


 浸れる味わいである。


 豪快に肉を喰らい、メンマの歯応えとネギとニンニクの刺激を楽しい、もやしをむしろ一服の清涼剤にする。


 エンタメ性の高い丼は、楽しい分減りが早いのが難点だった。


「もう、終わりか」


 気がつけば、高菜ごはんの茶碗はカラッポ。丼のスープさえも飲み干していた。


 名残を惜しむように、水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」


 会計を済ませ、店を後にする。


「まだ、時間があるな」


 腹ごなしも兼ねて、神戸の街を歩く。

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