第167話 神戸市中央区下山手通のチャーシュー麺

 あれこれあって休日の昼間から、神戸元町のオーダーバイキングの店を訪れていた。


 飲み放題をつけてもリーズナブルなこともあって、ビールをお供に水餃子やら小籠包といった点心やら麻婆豆腐などの本格中華に舌鼓を打っていると、時間が過ぎるのは早い。


 あっという間に、時間は終わりを告げようとしている。


 つまり、ラストオーダーだ。


 既にそれなりに喰っているが、アルコールでバカになった腹の虫はもっと食い物を寄越せ寄越せと煩い。 


 最後の最後、〆に何か頼むなら……やはり麺にいかずばなるまい。


 食べ放題メニューの中に燦然と輝く、チャーシュー麺。ゴルフを連想したやつは大体同年代のアレだ。


「チャーシュー麺を」


 サクッと注文を済ませる。


 食中なので『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』をプレイすることなく、まだ残っている食事と酒を楽しんで待つことしばし。


「あれ? これ、フルサイズ……」


 他のスープ類は比較的少なめの適量だったので油断していたが、明らかに一人前のフルサイズが来てしまった。


 いや、いける。


 腹の虫はそう叫んでいる。


 改めて丼を見る。


 黄褐色のスープの表面には、ハムのようなタイプの大ぶりのチャーシューが見える。その周囲にはたっぷりのもやしと、刻みネギ。


 もやしとネギがこれだけあるなら、これは実質サラダだ。


 そうに違いない。


 今の私には、そうとしか思えない。


 大丈夫だ。


「いただきます」


 まずはレンゲでスープを掬えば、とても淡泊なあっさりした味わい。


 やはり、これはサラダでいいだろう。


 大ぶりのチャーシューは、丁寧さを感じる豚の旨み。


 シャキシャキしたもやしと共に食べれば、あくまでサラダの具材。例えるなら、ポテトサラダのハムだ。


 これなら、いけるな。


 そう思って、スープの中に箸を入れると。


「アレ? これ、重いぞ」


 箸に掴んだ麺は極細。博多ラーメンとかのと同等かそれより細いぐらいだ。


 なのに、この重み。


 単純に量が多い。


 一瞬怯んだが。


「麺の原料は麦。植物だ」


 ならば、やはりサラダの範疇を出ないであろう。


 いける。


 優しい味のスープを孕んだ麦は、量はあってもホッとする味。上品な中華スープを頂いている感覚だ。


 本格中華の店が日本風に作ったという風情の味わいだが、だからこそ、いかに日本のラーメンが無駄にこってりする方向に振れるているか思い知らされるな。


 なんとかなりそうだ。


 腹の虫が踊り狂うのに任せ、麺を啜りもやしの歯応えを楽しみネギとチャーシューのコラボレーションを味わい。


 普段喰っている麺とは一線を画するあっさりしたチャーシュー麺という名のサラダを存分に味わう。


 やがて、無事に丼の中から固形物が消えていく。


 残るはスープのみ。


 この優しいスープなら、いってしまっても大丈夫か? と悩んでいると。


「空いた器お下げしますね」


 サクッと下げられてしまった。


 そういや、オーダーバイキングだったな。食い終わった皿が速やかに回収されるのは道理。


 というか、うん、冷静になるとスープを飲み干すのを止めてくれた店員グッジョブともいえるな、これ。


 最後に、デザートとしてでてきた杏仁豆腐と、ホットの烏龍茶でホット一息。


 そこで、時間切れ。


 存分に飲み食いした満足感と共に会計を済ませ。


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「とりあえずセンター街を目指すか」


 腹ごなしもかねて、久々の神戸の街へと歩みを進める。

  

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