第166話 東大阪市足代新町の辛味噌らーめん
仕事帰り、小路に降り立った。
『こみち』ではない。となると、袋小路から『こうじ』?
惜しい。
『しょうじ』が正解である。
出口には、足代、長堂方面との表示がある。
これは、
生活圏内ゆえに読めるが、よくよく考えれば読み間違えやすい地名のオンパレードだな、ここ。
などと思いつつ、地上へと。
この地へやってきた理由は一つ。
布施ラインシネマで映画を観るためだ。
今まで、この劇場へ向かう際は地下鉄の難波から近鉄に乗り換えていたが、よく考えたら小路からでも徒歩十分弱。 PITAPA マイスタイル圏内だから職場最寄り駅乗車なら交通費の節約にもなる。
かくして、かつては高井田系の麺を出す24時間営業の店舗があったところ対岸に観ながら進んで近鉄の高架を潜ってすぐ右折。
線路沿いに真っ直ぐ行けば、布施ラインシネマである。
上映までは、まだ余裕があった。
歩いていると、腹の虫が少々騒ぎ始める。
そうして、劇場まであとわずかのところで。
「そうか、この店があったな……」
引き戸を開け放って客を招こうというスタイルの店舗に、吸い込まれた。
こじんまりと厨房を囲むカウンターと、奥に少しのテーブル席があるようだ。
一人なので、入ってすぐのカウンターの隅っこに陣取る。
メニューを観れば、金の麦味噌らーめんが一押しのようだ。
なら、それにするか? と思ったが、隣に更に気になるメニューがあった。
かくして、セルフの水で喉を潤しているところにやってきた店員に、
「辛味噌らーめん、三辛で」
と注文している私がいた。
五辛までは無料、それ以上は有料のシステムだが、こういうのは初見では真ん中を狙うべし、という発想での三辛だ。
さて、あとは待つばかり。
ハロウィンイベント絶賛開催中の『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。
とはいえ、出撃するにも道中でアクティブポイントは使い果たしたし、出てくるまでの時間も読めない。
おでかけを仕込むに留める。しかし、イベント内容的に『ハロウィンタウン』がおでかけ先に追加されているが、ここ、燃えそうなんだよなぁ。『デススマイルズ』のステージ的に。
そして、後の時間は売国したがる天才的王太子の物語を読んで過ごしていると,注文の品がやってきた。
「おや、思ったほど赤くないな……」
薄褐色の、味噌汁という風情のスープ。ふんわりと乗っかる白髪ネギに、糸唐辛子の赤のアクセントが鮮やか。彩りとして刻みネギと水菜の緑もいい。あとは、半ば沈むようにして薄い色合いのメンマと、赤身のチャーシューが見え隠れてしている。
「これは、旨そうだ」
まずは、レンゲでスープを頂いてみるが。
「おお、麦味噌の甘みと……後からくる辛味、か。これはいい」
しっかりしつつも上品な味噌仕立てのスープは、文句なしに旨い。腹の虫がここぞとばかりに活動を開始している。
続いて引っ張り上げた太いプリプリの麺は、スープをしっかりと馴染んで啜ると幸せになれる。
そこに、ネギや水菜の薬味が絡んでくると、更に多幸感が湧き上がる。
想像以上にやってくる丁寧にガッツリやってくる旨さ。
頻繁に前は通るのに、今までなんでこなかったのか……いや、だからこそ今日、この味との出会いを楽しめていると考えよう。
変化を付けるため、薄い色合いで歪な形のしたメンマを食せば。
「なんと柔らかな……もしかして穂先か、これ?」
久々なので、なんだかとても得した気がしてくる。
次に赤身のチャーシューを囓れば、今度はガッツリ豚。
そこに辛味噌味が絡めば、贅沢な豚汁の風情。
「寒くなるこれからの季節に、最高の一杯だな……」
しみじみと暖を取りつつ確かな旨さに幸福を味わう。そんな一杯だ。
だからこそ、ゆっくりと、だが着実に、胃の腑に収めて腹の虫を鎮めていく。
太麺のお陰で満足感も高い。
気がつけば、麺も具材も姿を消し、味噌スープが残るのみ。
「ここにご飯……といきたいが、今日の所はやめておくか」
のんびり喰っていたせいか、上映時間が近づいている。
「ならばせめて、最後まで」
丼を持ち上げ。
絶妙な辛味と麦の甘みがブレンドされた味噌スープを、飲み干す。
「ふぅ……」
暖まって額に滲んだ汗を拭き。
水を一杯飲んで、一息。
「ごちそうさん」
レシートを手に会計を済ませ、店を後にした。
「さて、映画を観るか」
劇場は目の前だ。
音を出したら即死の映画を鑑賞すべく、入り口を潜る。
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