第165話 大阪市中央区日本橋の魚介豚骨つけ麺(中ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉カラメ)

「台風は逸れそうだな」


 先週末の予定が台風で吹っ飛んだところで、再び連休に合わせるように追い駆けてきた台風は、現時点で大阪への影響はほぼなさそうな進路となっていた。


 これで、連休は吹っ飛んだ予定を取り戻したり何なり、有意義に過ごせることだろう。


 ならば。


 休みに向けて鋭気を養うというのは、いい案ではないだろうか?


 幸い、腹の虫も騒ぎ立てるほどの空腹。


 今なら、いける。


 仕事を終えた私は、颯爽と難波に降り立つ。


 なんばCITYの途中で東に出て道具屋筋を少し南下してから更に東に折れ、オタロードへと続く裏道へと。


 そこに、目的の店はあった。


 開店直前の店の前には三人ほどの先客がいるが、これぐらいなら誤差の範囲。


 サクッと列に並んで開店を待つ。


 おもむろに『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動して、ヘカトリオンのイベントステージでハイスコアを更新したりしていると、開店の時がやってきた。


 細い店内の座席の直前に位置する食券機で、つけ麺の食券を購入する。


 手前から順に案内された席に着き、食券を出して、


「魚介豚骨で」


 と告げる。つけ麺の食券は幾つかのメニューを兼ねているからだ。


 ここのところ、カレーラーメンやカレーつけ麺に行っていたが、今日はノーマルな気分である。


「麺の量は?」


「中で」


 つけ麺は、300g がデフォだよね? ということで、いつもは並以下のところを中の 315g にする。いいんだ。今日は、連休へ向けてのエネルギー補給なのだから。


「ニンニク入れますか?」


 更なる店員からの問いには、


「ヤサイマシマシニンニクマシマシ魚粉カラメ」


 と、魔法少女の変身呪文を唱えるがごとくスムーズに詠唱を済ませれば、準備完了。


 あとは待つだけだ。


 アクティブポイントを使い切ってしまったところで、お知らせを見ればいよいよ学園乙女の試合が廃止されておでかけに変わる時が近づいているとのこと。


 ポイントの補填もないということなので、今の内にポイント消費して学園乙女のストーリーを読んでしまわねば。


 ストーリー最後まで読んだのがルベリスのみなので、残りのカレン、チコと読んでいるうちに、注文の品がやってきた。カモミールとアンゼリカは後にして、丼へと向かう。


 中にすると器の半径が大きくなるため、相対的に低く見えるが、どっしりと裾野を広く積み上がった野菜。頂上には、魚粉がしっかりと掛かって霞んでいる。


 麓には、黄色みを帯びた刻みニンニクが高く斜面に寄り添い、その奥では肉塊がゴロゴロと転がっている。


 つけ汁は、薄めの茶褐色で、ところどころにブツブツと見える白いモノは背脂であろう。


「いただきます」


 まずは、野菜をつけ汁へ投入して食す。


「豚だ……」


 魚介豚骨つけ麺というと定番の味わいがあるが、ここの魚介豚骨つけ麺は、強烈な塩気が豚の味を引き立てたところに、魚介が彩りを添えつつ、脂分がとろみを感じさせるワイルドさ。


 ありそうでないガツンとくる魚介豚骨の味わいである。


 野菜が進む進む。


 だが、まだまだ序章だ。


「魚粉、オン」


 手始めに、魚粉塗れの野菜を付ければ、当然ながら魚介分アップ。


 喧嘩するほど仲が良い豚と魚介の殴り合いハーモニーが楽しめる。


 一頻り楽しめば、次は、


「ニンニク、オン」


 山盛りのニンニクをまずは半分ほどスープに投入し、野菜を食す。


「キタ来た……ニンニクが加わると、何というか、元気になれるって根拠なく思えて前向きになれるよな」


 ガッツンガッツン強い味が口内を駆け巡る。


 楽しい。


 しかし、まだ、これからなのだ。


「ここで、満を持しての麺だ」


 中にしたことであり余る麺を、ここぞとばかりにスープへ浸して口へと。


「……」


 無言で、顔がにやけてくる。


 幸福感が口から入って全身へ伝わっていく。


 バキバキの食べ応えのある太麺に、強いスープが重なれば、とても強い。


 味の強さは、腹の虫を存分に楽しませる。


 ズルズルと、麺を啜る。


 たっぷりある。


 途中でニンニクの残りも投入し、強さをアップさせ、更なる深みへとハマっていく。


 ここで肉塊を囓る。


 強烈過ぎるスープに比べれば、むしろ優しい味わいで心地良い。


 モリモリと、麺を野菜を肉を咀嚼する。


 脳には間断なく多幸感が吹き上がる。


 キまっている。大丈夫、これは合法だ。


 次第に丼の中身は寂しくなり、カラメにしたことで麺に掛かっていた返しがそこで黒々と溜まっているのが見えてくる。


「こうなったら、行ってしまえ」


 僅かになった丼の中身を濃い茶褐色の汁ごとスープへと。


「おお、また新たな味だ……」


 丼の底の返しは、野菜から出た水分でそれなりに薄まっている。


 だからこそ、これは一種のスープ割り的味わい。


 むしろまろやかだ。


 残った麺と野菜を浚え。


 底に溜まった切れ端をレンゲで追い駆けつつ、スープを飲む。


 旨い。


 だが、ここは戒めを思いだして、完飲はやめておこう。


 さすがに、塩分摂りすぎでヤバイと身体の奥底で警報が上がっている。


 最後に、一杯の水で口内と体内を清め。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、買い物して帰るか」


 今日発売の新刊を確保すべく、オタロードの先のメロンブックスを目指す。







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