第168話 神戸市東灘区住吉宮町の角煮ラーメン(麺大盛り)
本日は昼一で神戸住吉で予定があった。
家で昼食を喰うには微妙なため、早めに現地へ向かって食すことにする。
「さて、どこへいったものか……」
ハンバーガーやカレーという気分でもない。かといって、ご飯やら惣菜食い放題のとんかつ屋は確実に食い過ぎてしまうこと必至。
ならば、あっさりしたものがいいだろう。
「そういえば、あっさりしたものがあったな」
かくして、JR神戸線住吉駅から南、国道二号線を渡ってすぐのその店に訪れていた。
「お、すぐ入れそうだな」
日曜のランチタイムだ。結構混み合うことを予想して、早めに来たのが効を奏したようだ。
厨房を囲むようなカウンター席と、入って左手に若干のテーブル席のある店内へと足を踏み入れると、空いていたカウンター席へと通された。
「さて、注文を何にしたモノか」
ランチのセットは、ご飯がお代わり自由という特典がある。だが、麺が基本のラーメンとなるのだ。
非常に魅力的ではあるのだが、ご飯を食い過ぎるリスクもある。
ならば、少々値が張っても喰いたかったメニューにいってみるのがいいだろう。
心は決まった。
「角煮ラーメン、麺大盛りで」
ご飯を付けない代わりに大盛りにしてしまったが、まぁ、大丈夫だろう。
後は待つばかりだが、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』は道中でアクティブポイントを使い果たしておでかけも仕込み済みだった。
そこまで待たされることもないだろうということで、店内の様子を眺めて過ごすことにする。
どうやら、早く来たのは正解で、散発的に、だが途切れずに客が入っており、いつの間にか待ちが発生していた。早く来た判断は正解だったのだと確認したところで、注文の品もやってくる。
「なんとも、穏やかな見た目だなぁ」
大盛にしたので丼はでかいが、中央に刻みネギが盛られ、円周に沿ってたっぷりの角煮と白菜が浮かぶは半透明の褐色スープ。油分はあるが、背脂が浮いているようなこともない。
「いただきます」
一口スープを啜れば、ほのかに白菜の甘みを感じる和洋折衷感のある独特の風味。いや、和食になった洋食的なスープ味、か。
鍋のベースにしてもよさげな味わい。
そこに浮かぶ角煮を食せば、しっかりと豚の旨みをしっかり纏った定番の甘辛味ながら、適度な濃さで歯応えも味わいも柔らかい。
なんだか、ほっこりする味だなぁ。
なんというか、白菜が入ると鍋物感がでるが、そういう感じ。
これからの季節に嬉しい風情だ。
「さて、麺をいくか」
と、スープの中から麺を引っ張り出す。
中細のストレート麺は、このスープにとても素直に順応している。
が。
「予想以上に多いな……」
大盛にした麺は、箸にずっしりと来る。
まぁいい。
スープでほっこりしつつ、麺を啜っていれば十分に幸せなのだ。
だが、それだけで終わるには、麺が多かった。
「こういうときは、薬味で新たな味わいを開発するに限る」
この店は、おろしにんにく、煎りゴマ、ニラキムチ、ニンニク醤油と薬味が充実しているのである。
「まずは定番のニラキムチ」
スープとのバランスを考えて適度に加えれば、優しさの中に隠れた拳が姿を見せてパンチを放ってくる。
いいぞ。これなら更に食が進む。
ある程度麺を消費したところで、仕上げに入る。
「ここで、ニンニクだ」
うっかりするとただのニンニクラーメンになるため、満を持しての投入である。
「ああ、いい塩梅だ」
拳の後に関節技を放ってくるとでもいおうか? 打撃系など花拳繍腿!関節技こそ王者の技よという感じだな。解らないなら解らないでいい。
とにかく、優しさの中に激しさが足されたのは間違いない。
だが、それで終わるのは寂しい。
「これが、慈悲だ」
煎りゴマをプラス。
香ばしい薫りで、ニンニクとニラの攻撃力を中和する作戦だが、これが上手くいって旨い。
薬味を効果的に使うことに成功したので、きっとどこかで何かの実績が解除されたに違いない。
そんなよしなしごとを考えつつ、麺を最後の一本まで喰らい尽くした。
残るは、あれこれアレンジして旨味がプラスされたスープのみ。
「これをいかないのは、失礼だな」
散々、薬味で弄んだのだ。責任を取らなければなるまい。
丼を手に、口へと近づける。
喉を鳴らし、口内に流れ込んでくる優しさと激しさと恋しさとせつなさと心強さを感じさせるスープを、胃の腑へと流し込み、脳に多幸感感を捧げる。
ことり、と丼を置けばあら不思議。
その中身はすっかり空になっていた。
最後に、水を一杯飲んで一息。
会計を済ませ、
「ごちそうさん」
店を後にする。
時計を見れば、早めに入ったおかげで予定まで時間があった。
「少し、腹ごなしに歩くか」
とりあえず、近くにある百均でも覗こうと、足を向ける。
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