第160話 大阪市北区大深町の炙りみそらーめん+からあげ定食+生ビール
「先に昼を済ませておくか」
神戸で昼一からの用事があるが、現地に行ってから食事をするにも土地勘がない。
こういうときは、土地勘のある梅田で早めの昼食を済ませるのが吉だろう。
かくして、十一時過ぎに大阪北を訪れる。
食事場所には困らない場所だが、三連休ど真ん中。
油断していればすぐに混み合う時間になってしまうことは容易に想像できる。
ならば、駅から近い場所を選ぶべきだ。
御堂筋線の最北端の改札を出て、すぐ。
そこからの最寄りは阪急三番街方面か、某最近誰かが『にじのしずく』を使って奇跡の通路が開通した家電量販店か。
まぁ、御堂筋線の改札からだと目の前に入り口があって迷いようがないし、家電量販店の方にしようか。
エスカレーターを登ってレストラン街となっている八階へ。
「さて、どこへ行こうか?」
開店直後だけあって、まだどこもすぐ入れそうだ。
よりどりみどりふかみどり。
あれこれ回っていると。
「そうか、この店があったな」
かつて、JR大阪南側にあった、阪神方面への歩道橋に連結した二階建ての飲食店の入った建物。その二階にあったラーメン店。
当時はよく利用していたのだが、建物ごと消えてからはご無沙汰だったが、そうか、ここに入っていたのだ。
「なら、久々に行って見るか」
幸い、まだ混み合う時間でなくサクッとカウンター席へと。
メニューを眺めれば、塩、醤油、味噌、魚介豚骨、坦々などなど。
ラインナップは多彩。
「迷うところだが……ここは味噌にするか」
店員を呼び、
「炙りみそらーめんを」
ただ、それでは済まない。
「からあげ定食を付けて」
からあげと半チャーハンがプラスされる。
「生中も」
からあげ頼んだら、条件反射だ。
かくして注文を通し、生中は先に持ってきてもらうことにした。
いつもは食事と合わせたいが、
「キムチとメンマ、食べ放題なんだよなぁ」
梅田で同系列か複数あるシステム。大皿に盛ったキムチとメンマが無料。
これがあれば、すぐにでも呑み始められるのだ。
小皿にキムチとメンマを盛っている間に、呑みものも届いて一口。
「ああ、生き返るなぁ」
さすがは百薬の長だ。
キムチは辛味控えめで旨味が強い食べやすいもの。メンマも、特になんの変哲もないものだが、素朴でいい。
それらがあればいくらでも呑めるが、メインとも合わせたいのでチビチビとやりつつ、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動しておでかけだけを仕込んでおく。
すると、最初に麺がやってきた。
「おお褐色……」
かなり濃いめの茶褐色のスープ、白髪ネギ、沈んでいるのはチャーシューか?
なにはともあれ、いただこう。
「いただきます」
レンゲでスープを一口。
「見た目通りの濃さがいいな」
炙りというだけあって香ばしさを感じさせる濃厚な味噌味に、唐辛子のピリ辛風味がいい塩梅。
白髪ネギも食感的にも味的にもいいアクセントになっている。
次に麺。
シンプルな細ストレート麺は、素直にスープを纏ってきてずるずるといけてしまう。
麺の勢いでチャーシューへ挑めば、味付けされておらず豚そのものの旨味が凝集されたもの。味噌と合わせることで楽しみは倍増だ。
そこに、ようやく定食のメニューがやってくる。
長方形の皿に丸く盛り付けられたチャーハンには紅生姜が添えられている。からあげは、からっとしたタイプのモノが三個。
見るからに旨そうだ。
「炒飯!」
待ちきれずレンゲで一口。
「おお、旨味、旨味」
しょっからさは控えめで、旨味が強い。
具材は細かく刻まれていてよく解らないがチャーシュー人参卵玉葱、といったところか? パラパラというほどではないが、固めの食感がいい。
紅生姜を合わせるとまた、抜群の相性を発揮する。
「では、からあげを行こう」
囓ってみれば、肉汁が溢れるタイプではなく、ぎゅっと身が締まって鶏のおいしさが詰まった味わい。
「そうそう、こういうのがいいんだ」
ジューシー系は脂が濃く少々苦手につき、このタイプは嬉しい。
「ビールのお供に、最高だな」
半分ほど残しておいたビールをグビリといただく。
当然、最高だ。
「午前中から、充実した食を味わってるなぁ」
ふと、そんなことに気付く。
連休ど真ん中に相応しい昼食と言えよう。
「キムチとメンマもあるしな」
こんどはビールではなく、炒飯に合わせてみればいい感じになった。
だが。
「もう一声、欲しいな」
店はそんな私の心を読んだのか、胡椒だと思っていた缶が「ガーリックパウダー」という事実に気付く。
「これしかないわな」
からあげ炒飯麺全てに適量を振り掛ける。
「ふぅ、これだこれだ」
炒飯に高度な薫りが足され、からあげは衣に含まれる以上のガーリック臭が腹の虫を刺激し、麺は……うん、少量では効果がないがある程度いれるとキツそうなんでやめておこう。
ノリと勢いでも、最後の一線を守る程度の理性はあるのだ。
こうなれば、後は欲望に従えば良い。
ずるずると麺を啜りチャーシューをカブリ、スープを呑む。
「あ、これ……」
スープに妙な食感を感じて確認すれば、
「これ、ゴボウの細切り? あと、大根のブロック、か?」
どうやら、根菜が底に沈んでいたようだ。
勿論、どちらも味噌汁の具としても優秀な食材、合わない訳がない。
より一層の食欲が掻き立てられ。
炒飯を貪りからあげを貪り麺を貪りキムチとメンマを喰らう。
すると、あっという間にスープ以外何も残らない状況ができあがっていた。
飲むべきか、飲まざるべきか? それが問題だ。
健康のことを考えれば飲まない選択がベターだろう。
だが、だ。
「これ、実質味噌汁だから、ラーメンのスープを飲むわけじゃない。定食に付きものの味噌汁を飲むだけだ」
完璧な理論武装により、選択肢自体を無効化する。
後は、飲むだけだ。
「ああ、これは、味噌汁だ」
ピリ辛のベースの味噌味に、大根とゴボウの味わい。
間違いない。
遠慮なく、腹の虫に促されるまま胃の腑に流し込めば、丼は空となりてテーブルへ戻された。
「ふぅ……」
カプサイシン効果がでてきたのか汗ばむ額を拭い。
お茶を一杯注いで飲み干し。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を出る。
「少々、食い過ぎたが、大丈夫だろう」
今日の用事は神戸の山を少し登らねばならない。カロリー消費される上に、そこからもカロリーを消費する要素が沢山ある。
「気にしたら負け、か」
ともあれ、阪急電車に乗って神戸を目指すべく、家電量販店東側の信号を渡る。
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