第161話 大阪市浪速区日本橋の豚骨味噌(野菜マシニンニクマシマシ)+かゆ飯

 めがねっ娘といえば、大人しい文学少女のイメージが付きまとっている。だが、実際には、武闘派のめがねっ娘だって数多いるのだ。


 そもそも、かの読子・リードマンだって大英図書館のエージェントとして激しいバトルを繰り広げているのである。


 そういうめがねっ娘も魅力的だ。どんなめがねっ娘だって魅力的だ。


 これを、ステロタイプから外したギャップ云々で語るのはナンセンス。めがねっ娘の多様性を理解しない愚か者の言説であろう。


 めがねっ娘、尊い。


 それで済む話ではないか。


 さて、今日は火曜日。 TOHO シネマズが安い日だ。その上、トレラーでめがねっ娘が男子生徒の指をへし折る姿に惹かれ、どうしても観たかった『響-HBIKI-』が仕事帰りに鑑賞可能な時間帯にやっていたのだから、行かない手はない。


 職場を即効で脱出し、難波の地へ降り立っていた。


「映画まで一時間。これから、恐らく濃い作品と対峙することを考えれば、ガッツリいっとくべきだな」


 適度な空腹であり、量はいけるか不明だが、質的なコッテリは大歓迎。


 なら、ここしばらく行ってなかった店へ行くか。


 御堂筋線難波駅の南側から出て、なんばCITYを抜け、オタロード方面へ。


 ゲーマーズ前を過ぎて少し行って左に折れたところに、その店はあった。


「お、すぐ入れるか」


 ギリギリ一つだけ席が空いていた。今日は味噌の気分だったので速攻で味噌を選んで食券を確保して店内へ。ここで待たされてめがねっ娘映画を見逃すとか目も当てられないではないか。


 店内へ入ったところで、一気に客が入ったところらしく食券回収まで時間が掛かりそうだった。


 この間に、映画のチケットを確保したところで、タイミングよく食券の回収に店員がやってきた。


 ここで、トッピングを答えるわけだが、


「野菜マシニンニクマシマシで」


 今日は、マシに留めることにした。ここのマシマシはときおりヘビィなこともあり、大事を取っての判断だ。


 タマにはこういう変化もよいだろう。


 後は待つばかりとイベント谷間の『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動して、イベントのない隙にスキル狂想曲でスキルアップアイテムを稼いでいると、注文の品がやってきた。


「なるほど、マシだとこんなものか」


 丼の表面にこんもりと盛られた野菜。確かに量はあるが、ここ、マシマシはマシの二倍になるだけに、ボリューム半分は絵面的に少々物足りない。


 いや、そう感じるのがマシマシに毒されているからか?


 大ぶりのチャーシュー二枚と、たっぷりのニンニク、野菜の上に被さった脂。


 うん、十分ガッツリ系だよな、これ。


 では、


「いただきます」


 スープへの導線が最初からあるので、レンゲで口へ運べば。


「おお、濃厚豚骨味噌味……」


 いつもマシマシの野菜で薄まっているので、なるほど、この量だとガッツリスープが味わえるのだな。


 天地を無理に返さずとも、適度に野菜をスープへ浸して味わえる手軽さ。マシにはマシのよいところがあるものだ。


 たっぷりのニンニクは速攻で溶かしてしまおう。そこに、豚を浸して喰えば、合わない訳がない。


 いつになく濃厚豚骨味噌味豚は、これだけで一品料理というかこれで一杯やりたい味わいになるな。


 いつもは抜きにすることも多い脂も、コッテリ感増量でタマにはいいものだ。


 そして、麺。


 こんなに早くお前と出会えるなんてな……これも、マシの可能性か。


 純然たる濃厚豚骨味噌ラーメンとして、とても旨い。


 ずるずるむしゃむしゃはむはむと、半分以上を一気にいったところで、


「味噌にはやっぱり唐辛子だよなぁ」


 卓上の唐辛子をたっぷりと振り掛けて、赤みを帯びた野菜と麺をたっぷり箸でホールドして口へ運ぶ。


「くぅ、味噌と唐辛子って最高だなぁ」


 このピリッとくるのが嬉しい。


 益々食欲を刺激される。


 された。


「あれ? もう、終わり?」


 気がつけば、丼の中には茶褐色のスープの中に申し訳程度のもやしが浮く程度。


 そうか、今日は、マシだったな。


 こんなにも、違うものなのか?


 いや、このマシには意味があったと考えましょう。


 そうだ。


 いつもマシマシでは頼む余裕がなかったが、この店は〆のかゆ飯(スープにご飯を入れたモノ)が一杯付いているのだ。


 今日こそ、それを試してみよう。


「かゆ飯、お願いします」


 注文して少しすると、小ぶりな茶碗に、スープで軽く煮込んでお粥状になったご飯が入っていた。


 そのまま一口いけば。


「意外に優しい味わいだな」


 豚骨スープだが、タレが入っていないからか、そこまでくどくない。


 だが、だからこそ。


「正しい食い方は、こうだよなぁ」


 元の味は楽しんだから、いいだろう。


 茶碗を丼の上に掲げ、レンゲで中身を投入する。


「ああ、ご飯少なめおつゆ掛けご飯だ」


 比率的にスープの中に微かに浮く米という状況。


 それをレンゲで掬えば、旨くないはずがない。


 一口、もう一口、更に一口。


 レンゲが止まらない。


 しかし、スープが減ってくるとレンゲで掬うのも限界がくる。


 こうなったら。


 丼を持ち上げ、一気にスープを飲み干す。


「ふぅ……旨かった」


 が、冷静になって、あの濃厚スープを飲み干していたことに気付く。


 更には、かゆ飯を食ったことで糖質量マシ。


 確かに旨かった。


 だが、


「やはり、マシマシの方が健康的だな」


 そう、結論づけて水を一杯飲んでリフレッシュ。


 食器を付け台に戻して、


「ごちそうさん」


 店を後にした。


「さて、劇場へ向かうか」


 めがねっ娘に惹かれてみた映画を観るために。


 だが、この時は気付いていなかったのだ。


 物理で殴り精神を同じかそれ以上の力で殴っているパワーを秘めためがねっ娘との出会いが待っていることに……



 

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