第156話 大阪市浪速区難波中の楓G郎(200g野菜マシニンニクマシマシ辛め)
なんだかとっても眠いんだ……
ここであの名前を呼ぶと天に召されてしまう、危険な台詞が脳裏に浮かぶ。
ゆえあって、二時間弱睡眠という極度の寝不足ではあったが、どうにかこうにか仕事を乗り切ることができた。
気が抜けると、眠気が押し寄せてくる。
だが、こういうときこそ栄養だ。
なんだか今日はヤサイの日らしい。
ヤサイと言っても、ヤマナシオチナシイミナシの隠語ではない。そんなことを言ったら、「貴様○ーディストだな、○ーディストに違いあるまい」とか言われてしまうぞ?
ともあれ、腹の虫も疲れ気味だが、身体が栄養を求めているのは間違いない。
ヤサイをしっかり喰いにいこう。
かくして、なんばで途中下車した私は、オタロード方面を目指している。この時間帯に待たずに入れて、ヤサイもしっかり取れる店に思い当たったからだ。
なんさん通りから一本裏手の道を進み、途中でわんだーらんどを覗きつつオタロードへ入ってすぐ。
目的の店はあった。
同系列の二つの麺屋が並ぶ店の向かって右側が目的地。
予想通り、客入りはまばらですぐに入れる。
なら、いこう。
「今日は少し控えめにいくぞ」
食券機で、麺量が一番少ない200gの食券を確保。
セルフの水を入れて席につき、食券を出せばトッピングを尋ねられる。
「野菜はマシで、ニンニクマシマシ辛めで」
そう、こちらも控えめに野菜はマシに留めておく。
腹の容量より、食べ切るだけの体力を心配してのことである。
注文が通れば、おもむろに『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今日から、セイラザードのイベントだったな。
その前に、おでかけを仕込んで……と作業しただけに留める。やはり、弾幕と戯れるのは辛い。
代わりに、読み損ねていたチャンピオンを読み進めていると、注文の品がやってきた。
「マシでも、結構なものだな」
しっかりと三角錐に盛り上がった丼を見た途端、腹の虫がピクリと動く。
「いただきます」
だが、ここで手が止まる。
「このニンニク、少々危険だな」
野菜の頂上に、これでもかというほどの量盛られた刻みニンニクは、油断すると雪崩を起こしそうだった。
「落ち着いていこう」
箸で少しずつ崩して、丼の周囲にそうように僅かに見いだせるスープへの導線に落とし込んでいく。
じっくり、じっくり、全体に馴染ませるように。
よし、ここまで減らせば大丈夫だろう。
野菜の隙間に刷り込まれたように残るのみとなったニンニクに、ホッとする。
さて、仕切り直しだ。
ニンニクを溶かし込むのに使った導線から、一口、レンゲでスープを啜れば。
「はぁ、生き返る……」
辛めで醤油が立った豚骨の味わいにニンニクの刺激が加わり、胃の腑に強烈なパンチを打ち込んできた。
ショック療法により、あっという間に、腹の虫の復活だ。疲れが裏返った。
やはり、疲れたときには野菜もしっかり取れるバランス栄養食をガッツリ食うべきなのだな。
シャキシャキしたもやしとキャベツをスープに浸して食べれば、それだけで幸せを感じられる。まるで、ずっと見たかった絵を遂に大聖堂で見ることができたような幸せだ……いや、この例えは危険だな。
そろそろ、麺にいけるな。
大幅に消費して崩れる心配が無くなった野菜の下から、麺を引っ張り出す。極太の固い麺は、手応えだけで旨そうだ。
「うん、期待通り」
事実、旨い。
引き出すまで、じっくりスープに浸かっていたお陰でほんのり色づいた麺肌は、濃い味の証。
ズルズルと、幸せを噛み締める。
一口食べるごとに、睡眠不足で弱った身体が甦っていくのを感じる。
糖質は、百薬の長だなぁ。
いや、薬以前の問題かもしれないが、気にしてはいけない。
今の私は眠いんだ。
言語感覚が狂っていても仕方ない。
暴力的な味に晒されながら、ふと、チャーシューに手を付けていなかったことに気付く。
ここのは、タレに漬け込んだ肉塊ではなく、そのままの極厚のチャーシューだ。
一口噛めば、締まった身の歯応えと、豚肉そのものの素朴な味が広がる。
そこに、スープだ。
ニンニクで必要以上のパンチが生まれた豚骨醤油の味が、チャーシューの秘めた楽しみ方を詳らかにする。
渾然一体になってこそのチャーシューだ。
楽しいなぁ。
しかし、ここまで来たらもっと楽しまないとな。
まずは、やたらとデカい缶に入った白胡椒をぶっかける。
この手の麺に定番の黒胡椒でないところが、変化があってよい。
次に、唐辛子が欲しいところだが、無いのだ。
なんてことだ!
でも、いや、そうだ。
ここのメインは長浜ラーメン。紅生姜とすりおろしニンニクと共に、辛子高菜があるじゃないか。
ご丁寧に、辛味強の注意書き。
これなら、一味と違えど互換性のある役割が期待できるに違いない。
器に入った小さなトングで一掴み。
スープに放り込んでしっかりまぜる。
照れたようにほんのり赤みを帯びる表面が趣深い。
さて、お味の方が。
「おお、しっかり、辛い」
元々ニンニクが立っていたところに唐辛子の辛味が加わり、高菜自体の旨味も合わさっている。
ありふれたマシマシ的食物から、少しはずれ味わいがいとおかし。
心も体もリフレッシュしていくのを感じる。
眠気も、大分収まってきた。
強制的に代謝が促されているのか、額を伝う汗の流れを感じられる。
力が、戻ってくる。
野菜の日にあやかって、バランス栄養食を食べに来た甲斐があったというものだ。
最初に加減をしたが、今ならまだまだマシマシ大丈夫という感じだが、腹八分目にしておこう。
そう。
気がつけばもう、丼の中には麺や野菜の切れ端が残るのみ。
レンゲで少し追い駆けていると、固い感触。
ほぼ一欠片がそのままになったニンニク片だ。
噛み締めたい欲求に駆られるが、踏みとどまる。
スープに戻すことにする。
結構刺激が強いニンニクだったからな。
うっかり噛み締めて鼻の粘膜をやられると大変なことになる。
君子危うきを噛み締めず、だ。
しばし、スープを啜って名残を堪能し。
水を一杯飲んで一息吐いて。
「ごちそうさん」
サクッと店を後にする。
「さて、少しだけ店を見て回るか」
手始めに、正面のソフマップなんば店ザウルスへと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます